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LiDARベンチャーのInnovusionがシリーズBで約69億円の資金を調達

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5月11日、米国カリフォルニア州のLiDARベンチャーであるInnovusionがシリーズBで64m$(約69億円)の資金を調達したことを発表した。

今回のラウンドに参画したのは、シンガポール政府系投資ファンドのテマセク、BAI Capital(米国のファンド)、Joy Capital(北京のVC)、そして既存投資家のNIO Capital、Eight Roads Ventures(大手フィデリティグループのVC)、F-Prime Capital(ロンドンのVC)も参画している。

デュアル回転ポリゴンLiDAR

Innovusionは2019年に自動車向けのLiDARを発表し、高精細・長距離性能を特徴に自動車向けに参入している。同社のLiDARは走査部分に、デュアル回転ポリゴン機構を採用したLiDARとなっており、ミラーを使ったビームステアリング機構を持つLiDARとなっている。
(補足) MEMS LiDARとは明確に区別をするようにしました。「ミラーを使ったビームステアリング」である点はMEMSと同じですが、ミラーがMEMSである場合はMEMS LiDARとし、単体ミラーや多面鏡(ポリゴン)を使ったものはMEMSではないため記述を変更しています。

デュアルポリゴン機構

同社特許WO2018125725より引用

これは、凹型のミラーの中にビームステアリングデバイスを格納した設計となっており、光ファイバーから出力される1,550nmのレーザーを、この光学系によって操作することで、レーザー走査を行い外部環境をスキャニングする。なお、Innovusionはこのミラーとビームステアリングを組み合わせていることから「Hybrid Solid State(ハイブリッドソリッドステート)」と表現をしている。

また、独自のアルゴリズムで実現されるインテリジェント機能も特徴的だ。これはリアルタイムでLiDARのROI(関心領域:Region of Interest)が調整され、点群のサンプリングの効率を最適化することができる。

NIOの次世代車種ET7に採用

InnovusionのLiDARは中国のスマートEVベンチャーで先行するNIOによって評価され、NIOのCVCであるNIO Capitalが同社へ出資を行っている。NIOの次世代車種であるET7にも搭載されることが明らかとなっており、その高精細・長距離性能は高く評価されているようだ。2022年第一四半期に納入を予定している。

Nio CapitalのマネージングパートナーであるIan Zhu氏はこう述べる。
「自動運転技術が成熟するにつれて、電気自動車のメーカーは、知覚ソリューションの主要コンポーネントとしてフロントマウントLiDARを選択するようになります。InnovusionのLiDARは、そのパフォーマンスと大量生産の実現可能性により、自動運転技術の業界のリーダーとして認められています。」

Innovusionの自動車向け長距離LiDARである「FALCON」は以下のスペックとなっている。

  • 最大検出距離250m(反射率10%時)※反射率を考慮しなければ最大500m
  • 角度分解能 0.06°×0.06°
  • FOV 水平120°×垂直25°
  • フレームレート 10FPS

InnovusionのCEOのJunwei Bao氏はこう述べている。
「私は、自動運転の将来におけるLiDARの役割と、自動車メーカーが自動運転車にLiDARを採用することについて楽観的です。Yoleのレポートによると、自動運転LiDAR市場は2025年までに17億ドルに達すると予想されています。さらに、高度道路交通システムのV2X(Vehicle-to-Everything)市場にも、LiDARの大きな成長の余地があります。」

今回調達した資金は、自動車グレードのLiDARの生産能力を高めると同時に、大量生産に向けたサプライチェーンパートナーをサポートするという生産面の取り組みと、高度なLiDARテクノロジーのR&D活動の拡大に使用される見込みだ。

今回参考のプレスリリースはこちら


MEMS LiDARやFMCW LiDAR、フェーズドアレイなど、方式別の技術動向や特徴について知りたい方はこちらも参考。

参考記事:(特集) 車載LiDARの技術動向 ~種類・方式の特徴と全体像~


ー 技術アナリストの目 -
今年の3月くらいからずっとInnovusionのシリーズBの話が業界で上がっていましたが、ようやく正式にリリースされました。NIOのET7へのLiDAR搭載が決まっているInnovusionですが、スペック上は反射率10%の物体を検出距離250m、水平FOV120°と、他社のソリッドステートLiDARと比較しても優れた数値を出しています(なお、他のメディアでも触れられている「最大検出距離500m」は、反射率が考慮されていないため、他社と比較するのであれば250mとするのが良さそうです)。

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参考文献:

1) CN111542765 - LIDAR WITH LARGE DYNAMIC RANGE

2) WO2018129410 - MEMS BEAM STEERING AND FISHEYE RECEIVING LENS FOR LIDAR SYSTEM

3) WO2018125725 - 2D SCANNING HIGH PRECISION LIDAR USING COMBINATION OR ROTATING CONCAVE MIRROR AND BEAM STEERING DEVICES


  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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