MITとハーバードの共同研究でCOVID-19等の病原体をセンシングするウェアラブルが発表
Collins LabはMITやハーバード大学の共同研究によって形成されている研究ラボである。この研究ラボでは、「SYNTHETIC BIOLOGY(合成生物学)」という合成遺伝子回路とプログラム可能なセルをモデル化、設計、構築する工学原理や、「ANTIBIOTICS & AI(抗生物質とAI)」という新しい抗生物質の探索をAIで行う、といった研究がされている。
6月28日、このCollins Labは、バイオセンサーをウェアラブル素材に埋め込むことで、COVID-19などの病原体をウェアラブルで非侵襲にセンシングする技術を開発し、Nature Biotechnologyに掲載されたことを発表した。
バイオセンサーによる病原体(細菌やウイルス)の検知
バイオセンサーで病原体を検知する技術自体は、当然ながらすでに存在している。一方で多くのケースでは、こうした病原体のセンシングは、サンプル・試料をラボで処理する必要があるため、ウェアラブルやポータブルデバイスのような形でオンサイトで測定できる技術は、まだ本格的には実用化していない研究テーマとなる。
Collins Labが今回開発した技術は、代謝物、化学物質、病原体の核酸シグネチャーを検出することができる、CRISPRベース(※1)のツールを含む、「凍結乾燥した無細胞合成回路で機能化された軽量で柔軟な基板とテキスタイル」である。
※1 CRISPRとはゲノム編集技術の一種で、近年、診断にも活用できるということで、様々なベンチャー企業がCRISPRを使ったポイントオブケアの診断のためのバイオセンサーに活用している技術でもある。CRISPR/Casは特異的な核酸を検出することができ、この核酸を同定することで、病原体を検知する
このCRISP技術の利用例としては、米国のバイオベンチャーであるMammoth Biosciences社が、SARS-CoV-2(COVID-19の原因ウイルス)の診断検査に用いて実用化している。ただし、今回のようにテキスタイルに埋め込むような形でオンサイトで使えるようにした例はない。
フェイスマスクへのバイオセンサー埋め込み
Collins研究チームは、このセンシング技術をフェイスマスクに埋め込んだウェアラブルバイオセンサーマスクを開発した。
最初のデモンストレーションでは、柔軟なエラストマーを基材としてセルロース基板と比色遺伝子回路を埋めこんでいる。サンプルは毛細管現象によって基板上にアレイ状に埋め込まれている反応チャンバーへと送られ、回路の出力として色が黄色から紫に変化することで検出の有無を判定する。
次に、実験では繊維ベースの基材にこれらの反応性バイオセンサーを埋め込んでいる。なお、基材となる繊維は100を超える生地(シルク、綿、レーヨン、リネン、麻、竹、ウール、ポリエステル、ポリアミド、ナイロン、組み合わせ材料など)の適合性スクリーニングを実施して決められている。
そして、フェイスマスクに埋め込まれたバイオセンサーの出力を見るために、光ファイバーを使ったモジュールを作製し、付属デバイスとして備え付けている。なお、このセンサーを機能させるためには、水分が必要となっており(※2)、フェイスマスクには水で満たされた小型ポーチが付いている。
※2 水分が何かしら必要なのは、恐らく流路からウイルスを反応チャンバーへと送る毛細管現象を機能させるためと思われる。
ユーザーは最低15〜30分間マスクを着用したのち、自分の呼気中に含まれるCOVID-19の原因ウイルスを検出することができる。水の入ったポーチを開けるボタンを1回押すだけで、パッドが水で満たされ、ウイルスが押し出され、反応チャンバーでウイルスの核酸を検知し、光ファイバーを使ったモジュールで出力を得る。
上記の例はフェイスマスクであったが、この技術は布地に埋め込むことができるため、衣服にセンサーを備え付けた形での検証も論文内2)では行っている。
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参考文献:
1) Developing a face mask that can detect COVID-19, News-Medical.net
2) Nguyen, P.Q., Soenksen, L.R., Donghia, N.M. et al. Wearable materials with embedded synthetic biology sensors for biomolecule detection. Nat Biotechnol (2021). https://doi.org/10.1038/s41587-021-00950-3
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