カリフォルニア大学サンディエゴ校が開発した血流モニタリングができる伸縮性超音波パッチ
カリフォルニア大学サンディエゴ校(UC SanDiego)は、血流状態をモニタリングすることができる伸縮性の超音波パッチについて、Nature Biomedical Engineeringで論文が掲載されたことを発表した。
この技術はナノエンジニアリング部門のSheng Xu教授が率いる研究チームによって研究されており、共同研究で韓国の延世大学と韓国科学技術研究所、大邱慶北科学技術研究所も参画している。また、国立衛生研究所とカリフォルニア大学サンディエゴ校Jacobs School of Engineeringのウェアラブルセンサーセンターによって支援されている研究だ。
血流をモニタリングする技術
動脈や静脈が通る血流の状態を監視できることは、健康モニタリングにとって非常に大きな意味を持つ。
血流状態を読みとることで、臨床医が血栓を含むさまざまな心臓血管の状態を診断するのに役立てることができる。血流の量と速度をモニタリングすることで、心臓弁の問題や手足の循環不良、または脳卒中や心臓発作につながる可能性のある動脈の閉塞などの判定に繋がる可能性がある。
現状、血流モニタリングは臨床現場で活用されており、主に重症患者を対象に侵襲的な方法でモニタリングされるもので、決して簡単に測定できるバイタルサインではない。今回のようなウェアラブルパッチでの血流測定はゲームチェンジャーになり得る技術となる。
なお、こうした技術についてはベンチャー企業でも開発の動きがある。
参考:超音波による非侵襲血行動態モニタリングデバイスのFlosonicsが14m$を調達
皮膚深くセンシングが可能な超音波フェーズドアレイ
このパッチは伸縮性で、首や胸に着用して使用することが想定されている。
パッチは、体内の14cm深さにある心臓血管信号を非侵襲的に、そして高精度に感知して測定することができる。特徴は14cmというセンシングの深さと、パッチセンサの直下だけでなくやや範囲を持ってセンシングすることができる点だ。
この特徴は、皮膚に付着する柔軟で伸縮性のあるポリマーの薄いシートに埋め込まれているmmサイズの超音波トランスデューサーのアレイによって実現している。この超音波フェーズドアレイは12x12のグリッド上になっており、それぞれがコンピューターによって個別に制御される。14cmの深いセンシングを行う場合には、トランスデューサーを同期させて超音波を1つのスポットに焦点を合わせる高密度超音波ビームを生成する。そして、広範囲にセンシングする場合には、超音波をさまざまな角度に傾ける。
今回の論文の共同筆頭著者のMuyang Lin博士はこう述べている。
「フェーズドアレイ技術を使用すると、超音波ビームを希望どおりに操作できます。そして中心臓器と血流を高解像度で監視します。これは、1つのトランスデューサーだけでは不可能です。」
今回の研究では、健康なボランティアを被験者としてクリニックで使用される市販の超音波プローブと、開発したパッチを使って測定したもので比較実験を行っている。パッチにより、心臓組織からのドップラースペクトルを監視し、中心血流波形を記録し、脳血液供給をリアルタイムで推定できることを示している。
この血流測定は、症状が現れるかなり前に脳卒中のリスクがあるかどうかを特定するのに役立てられる可能性もあるという。
将来的には患者がこのパッチを身に着けて、ポイントオブケアや在宅モニタリングで利用できる可能性もあるとしている。
今回参考のニュースリリースはこちら
【世界の生体センシング技術調査に興味がある方】
世界の生体センシング・バイタルサインモニタリング技術の動向調査や、今回のようなe-Skin伸縮性パッチの技術動向、ベンチャー企業や大学研究機関の技術調査などに関心がある方はこちらも参考。
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参考文献:
1) Wang, C., Qi, B., Lin, M. et al. Continuous monitoring of deep-tissue haemodynamics with stretchable ultrasonic phased arrays. Nat Biomed Eng 5, 749–758 (2021). https://doi.org/10.1038/s41551-021-00763-4
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