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世界初の連続分子モニタリングデバイスを開発するNutromicsが約4.6億円の資金調達を実施

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世界初の連続分子モニタリングウェアラブルデバイスを開発しているオーストラリアのベンチャー企業であるNutromicsが、資金調達ラウンドを実施し、570万オーストラリアドル(約4.6億円)を調達したことを、8月18日に発表した。

分子を選択的にモニタリング可能な新しいデバイス

Nutromicsは2018年にオーストラリアで設立されたベンチャー企業だ。臨床医がタイムリーに活用可能な分子データにアクセスできるようにし、様々な病気から人々を救うことをビジョンに立ち上げられた。

Nutromicsが開発しているのは、皮膚下の間質液から体内の分子を選択的にセンシングし、モニタリングすることができるウェアラブルパッチだ。

通常、こうした間質液を対象としたバイオセンサーパッチは、グルコースモニタリングの領域でAbbottやDexcomといったプレーヤーが実用化している。

Nutromicsの技術が新しいのは、こうしたグルコースモニタリング用途にも活用できるが、より幅広い「分子」を対象として、選択的にモニタリングできる技術プラットフォームである。

同社は現在開発しているデバイスについて、RMIT大学(ロイヤルメルボルン大学)、ニューサウスウェールズ大学、St. Vincent’s Hospital、カリフォルニア大学、カリフォルニア大学サンディエゴ校などの様々なサポートを受け、PoCを実施している。

(補足)なお、特に研究開発に協力をしている、機能材料およびマイクロシステム研究グループの研究共同ディレクターであるSharath Sriram教授は分子インプリントポリマーの専門家であり、この技術開発への貢献が高いと想定される。

最初のターゲットは救命用抗生物質の投薬状態モニタリング

同社はこのバイオセンサーを組み込んだウェアラブルデバイスを、投薬モニタリングで活用しようとしている。

具体的にはバンコマイシン(※)と呼ばれる一般的に処方されている救命抗生物質の治療薬モニタリング(Therapeutic Drug Monitoring)だ。

※バンコマイシンは細菌を殺菌する薬で、腸内の殺菌に用いられる

Nutromicsの発表によると、TDM市場は現在、世界全体で74.9億豪ドル(約6,100億円)と推定されており、Nutromicsの技術が実用化すると、歴史上初めて、急性腎障害などの予防可能な合併症を排除するための正確な投薬を可能にし、この抗生物質を投与された患者が在宅で投薬モニタリングできる仕組みが構築できるという。 

同社はこう述べている。

「現在、バンコマイシンの投与量の60%は治療範囲内にありません。これにより、過量投与と過少投与による合併症、医療費の増加、回復時間の延長など、患者の状態が悪化します。」

同社は2023年までに市場に参入することを目指しており、今回調達した資金を使用してウェアラブルデバイスのサンプル製造を開始し、今年後半から実際に人を対象とした最初の臨床試験を実施する予定となっている。

また、同社がTechview Mediaに語ったところによると、その後の2024年初頭に、米国とEUでの医療機器認可を得ることを検討しているという。

 

NutromicsのHPはこちら


ー 技術アナリストの目 -
通常グルコースモニタリングで利用されている間質液へのマイクロニードル(バイオセンサ)のアプローチですが、分子レベルでの選択的抽出を可能にする技術により、治療薬モニタリングというその大きなポテンシャルを切り開くことになります。Abbottは糖尿病の用途以外にも、アスリートの代謝モニタリングによりトレーニングを最適化する用途でもグルコースモニタリングパッチを展開しようとしており、徐々に間質液へのバイオセンサーも用途が広がる兆しが見えています。

【世界の分子インプリントポリマー・治療薬モニタリング技術に興味がある方】

世界の分子インプリントポリマーや治療薬モニタリング、そのためのバイオセンサーを対象とした技術動向調査や、ベンチャー企業のロングリスト調査など、興味がある方はこちらも参考。

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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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