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LIB向けの単結晶正極活物質の新しい製造方法を開発するNano One Materials

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リチウムイオン電池(LIB)の開発が様々な形で進んでいる。リチウムイオン電池は昔からその構造自体は変わらない。主要部材と言われる、正極材・負極材・電解質(液)・セパレーターの4部材は今もなお、それぞれの領域で研究開発が進む。

中でも正極材は電池セルコストの25%程度を占めており、性能へ与えるインパクトも大きい。近年はエネルギー容量が求められるEV用などではNMC811など、ハイニッケル系の素材が使われる。そして、昔から正極材は様々な組成が開発されており、近年は、増々その構造が複雑になっている。

そうした中、新しい正極材料とその製造方法を開発しているベンチャー企業がある。それがNano Oneだ。

カナダの正極材ベンチャーNano One

Nano One Materials Corpは、カナダのバンクーバーに拠点を構えるベンチャー企業だ。

同社は新しい正極材と製造方法に関する技術を開発している。過去から材料メーカーとして活動してきており、2015年にはカナダのトロント証券取引所に上場をしている。現在の時価総額はおおよそ3.85カナダ億ドル(約330億円)となっている。

まだ従業員規模で40名程度であるが、その協業パートナーは20社程存在しており、その中の1社はフォルクスワーゲンであり、そしてもう1社非開示だが米国自動車OEMも含まれる。

単結晶正極活物質の製造技術

Nano Oneが開発している1つの技術はシングルクリスタルコーティング正極だ。

通常、正極活物質はその充放電サイクルの中で、バッテリー内で副反応を起こしやすく、寿命に影響を与えてしまう。正極の結晶の中にリチウムイオンが挿入・脱離するのであるが、リチウムイオンが入ることで膨張・収縮が起こり、結晶の体積変化が起こる。特に通常使われる多結晶では、その結晶配向がそれぞれ異なって配置されていることから、体積変化によって、微細な亀裂が発生してしまう。

そこで、寿命を延ばすためには多結晶ではなく、単結晶でコーティングされた正極活物質を使うという方法が模索されている。一方で、製造コストはさらに上がってしまうことになる。

(補足)単結晶正極活物質についての詳細の解説はこちらのニッケル協会のDalhousie大学 物理・大気科学部のJeff Dahn教授へのインタビューが非常にわかりやすいため、こちらを参照

参考:単結晶ニッケル含有正極:Jeff Dahn教授との対話(ニッケル協会)

Nano Oneが開発しているのは、この単結晶セラミックコーティングされた正極活物質を、シンプルな製造プロセスで生成するという技術だ。同社はこれをM2CAM(Metal to Cathode Material)、またはワンポッドプロセスと呼んでいる。

通常、正極活物質の製造は、原材料となるニッケル・マンガン・コバルトなどの金属粉末を、金属硫酸塩などの前駆体に加工し、粉砕・ミリングしてキルンで焼成することで正極活物質を生成する。そして最後にコーティングプロセスを入れるという多段階での製造プロセスとなる。つまり、①原材料→②前駆体→③活物質→④コーティング、という4段階の工程だ。

Nano Oneが開発しているのは、②・③・④をワンポッドで行うというものであり、原材料の金属粉末から1ステップで直接コーティングプロセスまで完了させる。途中の余分なプロセスを省くことで、追加のコスト、エネルギー、および環境への影響を排除することができる。

カナダ政府機関からも支援を受けている

現在このプロセスは技術開発中であり、カナダ政府機関から複数の助成を受けて開発が進められている。

支援元は、Sustainable Development Technology Canadaと、British Columbia Innovative Clean Energy Fundという2つの機関である。商業化前のクリーンエネルギープロジェクトおよび技術の開発を支援するための仕組みの一環だ。

9月9日には、Nano OneはScaling Advanced Battery Materialsプロジェクトのマイルストーン2の達成を発表。マイルストン3へ向けた事前開発資金として、約1.6m$の助成を受けたことを明らかにした。

マイルストン2では、LFPとNMCのカソード材料を対象としたプロセス技術を強化しており、マイルストン3ではスケールアップした実証を行うという。

 

Nano OneのHPはこちら


【世界のリチウムイオン電池材料技術に興味がある方】

世界のリチウムイオン電池向け正極活物質や負極活物質などの先端材料技術動向調査や、それらを開発する企業・大学研究機関のロングリスト調査などに興味がある方はこちらも参考。

グローバル技術動向調査:詳細へ


  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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