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海外自動運転トラック開発の最新動向2022(新興企業編)

INDEX目次

海外自動運転トラック開発の最新動向(Daimler・Volvo)では、大手トラックメーカーの動向について見てきたが、今回は自動運転トラックの心臓部ともいえる自動運転システムや自動運転プラットフォームを開発する新興企業4社の動向について詳しく解説していく。

TuSimple:公道での無人運転を成功させ、実用化に向けた開発を加速

2019年に公道での無人運転テスト成功

2015年に米国で創業した中国系のスタートアップ企業であるTuSimpleは、自動運転トラックの技術開発において勢いのあるプレーヤーの1つであり、米国市場でのSAEレベル4の自動運転トラックの実用化を目指している。

同社は、2019年12月に発表された公道での無人運転テストの成功により注目される存在となった。この無人運転テストでは、車内に人を搭乗させず且つ人の介在が一切ない状態での完全自動運転車両を80マイル以上にわたり安全に航行させることに成功させている。航行中には、他のドライバーとの自然なやり取りを行いながら、一般道、信号、オンランプ、オフランプ、緊急車線、高速道路の車線変更などを問題なく実現している。

LiDAR・レーダー・カメラのセンサフルスタック

このような自動運転を実現させたのが、同社が開発する自動運転システムである。同社の自動運転システムでは、LiDAR、レーダー、高解像度カメラからなるセンサースイートにより、昼夜を問わずあらゆる運転条件下において車両の周囲360度の感知を実現する。

またAIを活用することにより、トラックが最大1,000 メートル離れた場所を認識し、夜間に物体を特定し、膨大な量のデータをシミュレーションに取り込むことができる。これにより安全性を劇的に向上させることができ、あらゆる自動運転シナリオにおいても車両による最適な選択を実現することができる。

大手トラックメーカーNavistarとの提携

TuSimpleが自動運転トラックを開発するうえで欠かせないのが、2020年にパートナーシップ契約を締結した、大手トラックメーカーの1つであるNavistarの存在である。両社は、2024年までの生産を目標にSAEレベル4の自動運転トラックの共同開発を行っていくとしている。

TuSimpleはまた、NVIDIAともパートナーシップ契約を結んでおり、2022年からは、高度自律ドメインコントローラー(ADC)の設計・開発において、NVIDIAのNVIDIA DRIVE AGXプラットフォーム(NVIDIA DRIVE Orin SoC)を採用している。

ADCは、同社の自律走行システムの不可欠な部分であり、ミッションクリティカルな知覚、計画、作動機能を含む数百TOPSを処理する自律走行セミトラックの中央演算ユニットとして機能する。

同社は、今回の戦略的な取り組みにより、ADCの機能をよりコントロールし、その開発スケジュールを加速させることができるとしており、自動運転トラックの市場投入までの時間短縮に期待がかかる。

Plus:米国、中国に続き欧州での事業展開も見据える

米国発の中国企業

Plus(旧Plus.ai)は、同じく米国で創業した中国系のスタートアップ企業であり、米国と中国市場での商業化を目指しているプレーヤーである。

同社は、大型トラック向けの自動運転プラットフォーム「PlusDrive」を開発している。このプラットフォームは、レーダー、LiDAR、カメラを搭載し、これらを融合することで車両周囲を360度感知できることを特徴としている。この融合型の感知システムにより、自動運転トラックは数百メートル離れた車両を追跡することができる。

また同社の自動運転プラットフォームでは、自動運転の安全性を担保するためにマルチレベルでの冗長性を持たせていることも特徴的である。

例えば、マルチモーダルセンサーは、センサー障害の影響を軽減するための冗長性があり、局所的な環境ノイズを修正し、動作範囲内の精度を大幅に向上させることができる。またソフトウェアにおいては、オドメトリ、VisualSLAM、PointCloud ベースのローカリゼーションなどの補完的なモデルとメカニズムにより、機能的な冗長性が提供され、統計モデルを使用して、異なる動作モード間のスムーズな移行を確保することができる。

このような冗長性により、ソフトウェア、センサー、またはハードウェアの障害が発生した場合でも安全かつ適切なパフォーマンスが確保される。

Amazonと1,000台分の供給契約を締結

同社のPlus Driveを搭載した自動運転トラックは、米国と中国で走行テストが重ねられている。米国では、2021年にAmazonとの間で、配送トラックに搭載されるPlus Driveの自動運転プラットフォームを少なくとも 1,000台分供給する契約を締結している。

Plusは、2019年に米国・中国での市場展開に続き、欧州での事業展開を発表している。同社は、自動運転トラック輸送技術のグローバル顧客展開をすでに開始しており、今後更なる市場拡大が見込まれる。

アフターマーケット市場も狙う

Plusは、他社にはないユニークなサービスも展開している。同社は、2022年5月に、「Plus Build」と呼ばれる、アフターマーケットにおける既存のトラック車両に半自律型ソフトウェアを搭載するサービスの展開を発表している。

このPlus Buildでは、トラックに最新の PlusDrive  LiDAR、レーダー、カメラセンサーを装備する一方で、まだ準備が整っていない自動運転ソフトウェアを制限する。PlusDrive 機能には、レーンセンタリング、ドライバー主導のレーン変更、交通渋滞アシスト、時速ゼロまでのアダプティブ クルーズ コントロールが含まれている。

Plusは、このPlus Buildのサービスを、より高いレベルの自律性に関する規制を待たずに、開発した技術から収益を上げることができる有効な手段と捉えている。

Aurora Innovation:車両メーカー、物流企業など多岐にわたる提携で実用化を目指す

乗用車からトラックへの展開

2017年にシリコンバレーで設立されたAuroraは、トラック車両や乗用車など様々な車両に適応する自動運転システム「Aurora Driver」を開発している。同社はSPACで上場するとともに、2023年後半に自動運転トラックを商業化することを発表している。商用車と乗用車の両面で自動運転システムの実用化を狙ってきたが、先に商用車で実用化することを明確にした形だ。

Paccarやボルボと提携して自動運転トラックを開発

同社は、様々な企業との提携により自動運転企業としての地位を高めている。

2021年1月には、トラックメーカー大手のPaccarとグローバルなパートナーシップ戦略を結び、Aurora Driverをトラック輸送における初めてのアプリケーションの提供に向けて開発を行うことを発表した。

Auroraは、前半パートで解説したように、ボルボ・トラックとも提携しボルボのトラック車両(VNLモデル)にもAurora Driverを提供しており、北米トラック市場の半数近いシェアを占める2社(Paccar、ボルボ・トラック)との提携が、同社における今後の自動運転トラック技術開発の原動力となりそうである。

物流大手企業との提携

Auroraは、トラックメーカーとの提携だけでなく、物流サービスの開発にも力を入れている。その1つが物流企業と提携した、自社の自動運転技術を利用した貨物輸送のパイロットプログラムである。

Auroraは、2021年9月から、物流大手のFedExの貨物を自動運転トラックによりの自律輸送するパイロットプログラムを開始し、2022年5月からはさらにその活動を拡大させることを発表している。

さらにAuroraは、同じく物流大手であるシュナイダーと提携し、Aurora Driverを使用して同社の貨物を輸送するパイロットプログラムを開始することを発表している。

またAuroraは物流サービス開発の一環として、2021年12月に、同社が提供するサブスクリプションタイプのトラック輸送サービスである「Aurora Horizon」と、Uberが提供する運送会社と運動貨物をマッチングさせるトラック配車システム「Uber Freight」とを組み合わせた新たな自動運転支援サービスを開発することを発表している。

この開発では、Uber FreightとAurora Horizonのネットワークを統合することにより、フリートの利用率を最大化し、商品を輸送する機会を広げるとともに、サプライチェーンの運用を合理化することができるツールの提供を目指している。

AWSを用いたシミュレーションによる学習環境構築にも注力

またAuroraは、Aurora Driver自身の開発も加速させる。

同社は、2021年12月に、機械学習でのトレーニングとクラウドベースのシミュレーションを実施する際の推奨クラウドプロバイダーとしてアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)を採用することを発表している。

AWSを利用したAuroraの独自開発ツール「Virtual Testing Suite」を用いると、実際の環境で計測した、 1 回のテスト状況で得られたデータから、数百通りのパターンを想定することが可能となる。このようなバーチャルテストを通じて、道路工事、信号無視などといった複雑な状況に対しても、より迅速かつ安全にナビゲートできるように Aurora Driver をトレーニングすることができるという。

Waymo:物流大手との相次ぐ提携で市場投入への動きを加速

ロボタクシーで先行する企業が自動運転トラックにも注力

Waymoは、Googleなどを傘下に収めるAlphabet傘下の自動運転技術の開発企業である。

同社が開発する自動運転システム「Waymo Driver」は10年以上の開発実績があり、Waymoは自動運転技術開発のリーダー的な存在といえる。

特に同社は、自動運転タクシーサービス「Waymo ONE」で知られているが、2017年から開始した自動運転トラックの輸送サービス「Waymo Via」を通じて、自動運転トラックの分野でも確実に実績を積んできている。

物流大手J.B.HuntやC.H.Robinsonとの提携

同社は、2021年に物流大手のJ.B.Huntと提携し、同社が自動運転トラックサービスの最初の顧客となることを発表している。最初の試みとして、2022年7月から6週間にわたり、J.B.Huntの顧客であり家具のEコマースプラットフォーマーであるWayfairの商品をWaymo Viaに基づき配送する試験運用を行っている。今後もこのような貨物輸送のパイロット運用を重ね、数年以内での実用化を目指すとしている。

2022年2月には、同じく物流大手のC.H.Robinsonとの提携を発表し、自動運転トラックの輸送テストを開始する。この提携では、Waymo Driverと、C.H.Robinsonのサプライチェーン技術である「Navisphere」とを組み合わせることにより、Waymo Viaを軸とした新たな輸送ソリューションの構築を目指すとしている。

Uberとの長期的な戦略パートナーシップ

さらにWaymoは、2022年6月Uberと提携し、同社のWaymo Viaと前述の「Uber Freight」とを:結びつけた新たなサービスを開発するための長期的な戦略パートナーシップを発表している。

この取り組みは、前述のAuroraのケースと同様に、Waymo Viaの技術をUber Freightのプラットフォームに接続することで、ネットワーク全体に自動運転トラックを展開するというものである。

Waymoは、今回のパートナーシップにおいて、Uber Freightの ネットワークを利用するために数十億マイルの商品のみのマイレージを予約することを予定している。これにより、荷送人が最も必要としているときにその容量を解放して、物流業界に長期にわたって有意義な影響を与えていく考えである。

Daimlerトラックとも共同開発

Waymoは、トラックメーカーとの提携にも力を入れている。

海外自動運転トラック開発の最新動向(Daimler・Volvo)でも紹介したように、同社はダイムラー・トラックと共同開発を行っている。ダイムラーとともに、Waymo Via専用の冗長シャーシや冗長システムを開発するなど、ダイムラーのデュアルトラック戦略の一翼を担う存在として、自動運転トラックの技術開発にも注力している。

このようにWaymoは、Waymo Driverを搭載したWaymo Viaのシステムを軸にさまざまなプレーヤーと提携し、実用化に向けた動きを加速させている。

まとめ

ここでは、自動運転トラックの開発を行う新興企業として注目される4社の動向について取り上げた。前回の記事の大手系の動向も含め、まとめると以下のように整理される。

自動運転トラックの開発状況まとめ

当社調べにより作成

このような自動運転のシステム開発企業にとっては、走行テストや貨物輸送テストなど運用による技術の蓄積が今後の生き残りをかけた重要な鍵となる。

SAEレベル4の自動運転トラックの実用化の目安とされているタイミングまであと数年にせまる今、トラックメーカーや物流企業との提携による開発がさらに加速するとみられ、今後の動向が大いに注目される。



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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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