車載LiDARメーカーのアップデート2022(Luminar・Aeva・AEye編)
車載LiDARについては当社のブログでもこれまで数々の動きを取り上げてきた。
参考記事:(特集) 車載LiDARの技術動向 ~種類・方式の特徴と全体像~
この業界は動きも激しく、各社の動きのアップデートを行いたい。前半は、Luminar Technologies、Aeva、AEyeの動向について解説する。
Luminar Technologies:日産や中国企業とも提携
LiDAR実用化の先陣を切っている企業の1社がLuminar Technologiesである。いくつか動きにアップデートがあるため、それぞれに触れていこう。
Volvo新型電動SUVへの搭載で本格的な市場参入へ
Volvoとの提携は以前から触れてきた通りであるが、無事にVolvoのSUVに搭載されそうである。Volvoが2022年11月に開催されるワールドプレミアでお披露目される新型電動SUV「EX90」に、Luminar製のLiDARが採用されている。
LuminarとVolvoは、2018年に業務提携を発表した後、2020年に自動運転車の生産契約を結び、そこから共同開発を進めてきたが、ついに実を結んだ格好である。
この新型SUVには、8台のカメラ、5台のレーダー、16個の超音波センサーとともに、LuminarのLiDARシステムが搭載されている。
搭載されるのは、同社が量産車両向けに開発した低コストパッケージの3D LiDAR「Iris」である。Irisは、走査型のレーザースキャナを内蔵しており、水平視野角120°、垂直視野角26°、最大検知距離600m(反射率10%以下では250m)、距離制度1㎝以下、解像度300点/平方度以上、の性能を有する。
Volvo車両には、Irisを備えたフルスタック自律型のソフトウェアシステム「Sentinel」として組み込まれる。Sentinelには、同社の知覚ソフトウェアが搭載されており、80mまでの走行可能な自由空間や、150mまでの車線マーカー、250m以上の物体を区分することができる。 LiDARシステムのハードウェア、ソフトウェアの量産体制は2022年末までに構築される予定であり、今後の市場投入にも耐えうる環境が整うことになる。
中国市場にも本格参入へ
Luminarは、中国市場への進出にも動き出した。
2022年5月、Luminarは、スマートモビリティ技術を開発する中国ECARXと、民生車用や商用トラックの生産において高度な安全性と自動運転機能を実現することを目的として業務提携を行うことを発表した。
ECARXは、中国の大手自動車メーカー吉利汽車を傘下に収める吉利のグループ企業であり、LuminarにとってECARXとの提携は中国進出への大きな足掛かりとなる。 ECARXは、教師なしの高速道路走行が可能なインテリジェントな電気自動車を実現するフルスタックの自動車コンピューティングプラットフォームを開発している。今回の提携では、Luminarの長距離LiDARとソフトウェアをECARXの自動車インテリジェンス製品と統合することで、先進の安全技術と自動運転能力をもった量産車を中国市場で展開していくことが期待される。
日産と次世代LiDARを共同開発
日本国内の自動車メーカーとの協業も進んでいる。
日産は、2022年4月に、車両の周辺環境に関する高精度かつリアルタイムな情報を活用し、衝突回避を飛躍的に強化する、新しい運転支援技術を発表した。
この新技術は「グラウンド・トゥルース・パーセプション技術」と称され、LiDAR、レーダー、カメラからの情報を融合し、物体の形状や距離、車両周辺の構造を高精度にリアルタイムに検出することができる。 Luminarは、この技術に採用されるLiDARを日産と共同で開発する。次世代LiDARを含むグラウンド・トゥルース・パーセプション技術は、2020年代半ばまでに開発を完了させることを目標としており、まずは一部の新モデルに採用され、2030年度までにはほぼすべての新モデルで採用されるようだ。
今後の動向について
Luminarは、Volvo車への搭載を皮切りに、グローバルでの実用化に向けてLiDAR開発の歩みを大きく進めてきた。
2022年8月に発表した四半期報告書によると、2022年末にはLiDARの量産体制に入り、メキシコで自動化された量産施設を設置するなど、その生産能力の大幅な強化が予定されている。
また同社は、2022年3月に、高性能レーザーチップを手掛けるFreedom Photonicsを買収するなど、企業買収による事業拡大も活発化させており、LiDAR開発における垂直統合にも力を入れている。
Aeva:世界初のFMCW LiDARオンチップの商用化製品を顧客向けにリリース
同じく米国に拠点を置くAevaも実用化に向けて大きく前進した企業の1つである。
世界初の4D LiDARを発表し、戦略的顧客へ出荷
Aevaは、2022年2月に、カメラレベルの解像度を備えた世界初の4D LiDAR「Aeries II」を発表し、同年7月には同LiDARを戦略的な顧客に対して出荷したことを発表している。
Aeries IIは、FMCW(周波数連続変調)技術と世界初のLiDARオンチップモジュール設計を活用したLiDARセンサーであり、高度な4D知覚ソフトウェアを搭載している。「4D」は、従来からある空間の3D位置に各点の瞬時速度を加えたものであり、各ピクセルの瞬時速度を独自に測定し、自動運転車や機械が最大500メートルの距離で物事がどこにあるかを認識し、移動速度を正確に知ることできる。
またカメラレベルの高解像度は、Aeva独自の生4Dデータを活用することで実現されており、静的シーンのモーションブラーなしでフレームあたり最大1000本のラインを持つリアルタイムのカメラレベルの画像を提供することができる。これは従来のLiDARセンサーの最大20倍の解像度を誇るもので、画像セグメンテーションにより、道路標示、運転可能地域、植生、道路障壁の検出が可能になるほか、従来のToF(Time of Flight)方式のLiDARセンサーの最大2倍の距離でタイヤの破片などの道路の危険を検出することができる。
同社は、Aeries IIの発表以降、この4D LiDARの展開に向けた積極的なアプローチを行っている。
同社は、2022年3月に、 Aeries 4D LiDAR センサーが NVIDIA DRIVE 自動運転車プラットフォームでサポートされるようになったことを発表し、続く9月にも同LiDARが「NVIDIA DRIVE Simプラットフォーム」でサポートされるようになったことを発表している。
特に、NVIDIA DRIVE Simは、大規模な物理ベースのマルチセンサー自律走行シミュレーションを実行するために設計されたエンドツーエンドのプラットフォームであり、このプラットフォームを採用するOEMにとっては朗報と言える。Aevaの技術責任者は、同社の4D LiDARをこのプラットフォームに統合することにより、次世代の自律走行車のための安全な自律走行の実現を加速することができると述べている。
自動車以外への4D LiDAR活用も視野に
同社は宇宙分野や産業分野においても用途展開を図ろうとしている。
同社は、2022年4月、NASAの「Kinematic Navigation and Cartography Knapsack (KNaCK) 」プロジェクトにおいて、同社の4D LiDAR技術が採用されることを発表した。
KNaCKは、次世代の月面・惑星探査をサポートするために設計されたLiDARベースのモバイル地形マッピングおよびナビゲーションシステムであり、同社の4D LiDARが、月面の高度マップの作成や、全地球測位およびナビゲーションシステムの欠如を克服する正確なナビゲーションの機能として期待されている。
また同社は、2022年8月、産業用センシングの大手ソリューションプロバイダであるSICKと、同社の4D LiDARを産業用センシングアプリケーションに導入することを目的として、複数年にわたる戦略的提携を発表した。
具体的な取り組みについては明らかになっていないが、4D LiDARの活用によって、エッジ効果なしで同じ測定内で反射率の低いターゲットと高い反射率のターゲットを知覚するためのダイナミックレンジ性能が向上することにより、自動化された機械を屋内から屋外へと移行させやすくなることなどが期待されている。
今後の動向について
前述のように、Aevaは、本年発表した4D LiDAR「Aeries II」を戦略的顧客に出荷するなど、本格的な実用化に向けた活動を積極的に進めている。
同社は、4D LiDARの活用を自動車分野に限定せず、宇宙用途・産業用途などの非自動車分野に対しても推し進めており、今後様々なアプリケーションにおいて4D知覚技術に対する需要の高まりに対応するために、4D LiDARの生産スケーリングの拡充に注力していくものとみられる。
AEye:独自の適応型LiDARで実用化を目指す
米国のLiDARスタートアップであるAEyeは、2021年8月にNASDAQに上場し、2022年においてその動向が注目される企業の1つである。
適応型LiDARのビジョンを発表
AEyeは、「適応型(アダプティブ)」と呼ばれる、状況に応じてレーザーの出力や解像度を変化させられる長距離LiDAR技術を開発している。
同社は、2022年5月、ソフトウェア定義の自動車における適応型LiDARのビジョンを発表し、同社のLiDARプラットフォーム(インテリジェント・センシング・プラットフォーム)「4Sight」の革新的な設計を公表した。
このプラットフォーム設計によれば、自動車メーカーは同じLiDARセンサーを複数の集積場所に組み込み、AEye独自のセンシングソフトウェアを使って車両ごとに性能を最適化し、集積することができる。
同社の適応型LiDARを採用することで、自動車メーカーは性能を犠牲にすることなく設計の柔軟性を得ることができ、ソフトウェア定義型の車両開発をさらに推し進めることができるという。
コンチネンタルと共同開発の長距離LiDARの実用化加速へ
AEyeのLiDAR開発において重要なパートナーとなっているがコンチネンタルである。
両社は、2020年にコンチネンタルがAEyeに部分出資したことをきっかけに長距離LiDARの開発をスタートさせている。コンチネンタルは、元々LiDAR技術の開発にも力を入れてきた企業であり、20年以上の開発実績をもつ。AEyeにとっては、コンチネンタルが培ってきた技術・ノウハウが活用できるので、LiDAR開発において大きなプラスとなる。
さて、両社は現在、コンチネンタル製の高解像度ソリッドステート長距離LIDARセンサー「HRL131」の開発に注力している。このHRL131には、AEyeの4Sight、リファレンスアーキテクチャー、ソフトウェアが製品の基盤として搭載されている。
HRL131の量産化は2024年とされているが、これを後押しする動きも出てきた。
同社は、2022年9月、HRL131がNVIDIA DRIVE Sim プラットフォームでのテストと開発に利用できるようになったと発表した。
これにより、AEyeとコンチネンタルは、NVIDIA DRIVE Sim プラットフォームを利用して、自動運転や ADAS の顧客がさまざまな自動運転のエッジケースや環境で完全に適応するLiDARシステムを迅速にシミュレートできるようにする。OEM は開発とテストの時間を節約し、商用展開の市場投入までの時間を短縮できるようになるため、より早期の実用化に期待がかかる。
LiDARを利用した宇宙・防衛向けソリューション開発
AEyeは、2022年8月、データ駆動型人工知能を手掛けるBooz Allen Hamiltonと、航空宇宙・防衛(A&D)アプリケーションの開発で提携したことを発表した。
航空宇宙・防衛の分野では、リアルタイムで高速・長距離の対象物の視認・分類が求められるため、このアプリケーションの開発に4Sightの技術が活用される見込みである。
またAEyeは、2022年9月、高度交通システム(ITS)や電子料金徴収システム(ETC)のプロバイダー企業インテトラとともに、4Sightを活用した料金徴収ソリューションを開発・展開したことを発表した。
このシステムでは、従来の誘導ループシステムやカメラ、レーダーなどの地上での検知方法よりも低コストで高い信頼性を実現することができるという。既にトルコとカザフスタンで導入されており、今後、他のITSアプリケーションや地域にも拡大される予定である。
さらにAEyeは、同月に交通分析用クラウドプラットフォームを手掛けるGridMatrixとの提携を発表し、同社のLiDARシステムをGridMatrixのソフトウェアプラットフォームに統合して、交通部門が必要とする高精度データを提供し、リアルタイムでのスマートシティ意思決定や過去の分析ができるようにすることを明らかにした。
この統合で、交差点管理および事故検出のための業界で最も包括的なデータ収集・視覚化ツールが誕生することになる。
今後の動向について
AEyeにとって2022年は、今後の事業拡大に向けた基盤強化を図ってきた1年と言える。
同社は、自動車を含む主要産業界に対して製品提供を行っており、AEyeプラットフォームの立ち上げと2023年の展開に向け、主要市場のパートナーや顧客の取り込みに注力していくとしている。
また、4Sightについては、ソフトウェア主導のユニークな機能の展開とカスタマイズに向けた機能強化を継続していくとしており、早期の実用化が期待される。
まとめ
ここでは、LiDAR実用化に向けて大きく動き出した3社の動向について解説した。
LiDARベンチャーについては、多くの企業がSPACスキームを活用して上場を行っており、今後淘汰が進むことも予想される。そうした中で、これまで車載向けアプリケーションでLiDARの開発を進めてきた企業の非車載での用途展開も模索される動きが出てきたことも、この1年の特徴的な動きとなっている。
今回取り上げた3社においては、比較的LiDAR業界でもある程度車載向けで足場が固まっているとも言え、2023年以降の自動車分野での採用に関する発表をウォッチしていく必要がある。また、経営上のリスクヘッジともいえる非自動車分野での動きも見ていく必要があるだろう。
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