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世界の自動車OEM各社のEV化戦略・EV車販売計画2022

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世界各国が気候変動対策としてカーボンニュートラルを目指す取り組みを強化している。

その影響を大きく受けているのが自動車業界だ。

欧州では、2022年6月に「2035年までに全ての新車をゼロエミッション化する」という世界に先駆けた方針を打ち出しており、2022年10月27日には、EU理事会と欧州議会で、この方針を盛り込んだ、「自動車の二酸化炭素(CO2)排出基準に関する規則の改正案」が暫定合意された。

また、この改正案には、2030年に2021年比で新車の二酸化炭素(CO2)排出量を55%削減するという政策「Fit for 55」の内容も盛り込まれている。

今後、正式に法令化されれば、新・排ガス規制「Euro 7」において、EU圏内における2035年以降の内燃機関(エンジン)搭載車の実質生産禁止が確定し、自動車メーカー各社は欧州市場において、より早急なEV化対応が求められることになる。

また、米国でもカリフォルニア州に加えてニューヨーク州も、2035年までに州内で販売される全ての新車を電気自動車・PHEVにすることを義務付ける規制を採用することを2022年9月に発表した。ほかにも環境規制に対して前向きな州も追随する見通しが出ている。

このように中長期ではEV化シフトに向かう欧米に対して、足元では急速な電動化の動きに対して、充電インフラの不備や、電力料金の値上げ、景気減退などによる逆風など、やや直近の見通しは読みづらい状況となっている。

今回は世界中の自動車各社が、現在どのような目標でEV化を進めているのか、特に欧州市場に関係の深い欧米や日本の自動車メーカーにおける、各社のEV化比率やEV車販売に関する最新の目標をまとめる。

VolksWagen:2030年までにEVを50%以上へ

VolksWagenは、「2050年までのカーボンニュートラル実現」という目標達成に向け、2021年4月に「Way to Zero」という中長期計画を発表。

2050年までにカーボンニュートラルを実現するためのロードマップを具体的に示した。

「Way to Zero」では、2030年までに達成すべき中間目標を次のように掲げている。

  • 欧州で生産される新車1台あたりの二酸化炭素(CO2)排出量を2018年比で40%削減する
  • 欧州市場における自動車販売台数の70%以上、北米と中国市場では50%以上をEV車にする

自動車のEV化だけではなく、2025年までに風力発電所と太陽光発電所を新たに数カ所建設するなど、事業全体で排出される二酸化炭素(CO2)の排出量の削減プランも具体的に盛り込まれているのが特徴だ。

2021年時点でのVolksWagen社のEV車販売比率は約5.1%となっており、2025年に20%、2026年には25%、2030年に50%となる見通しとなっている。

2030年のEV車販売比率50%を達成可能なのかどうか、2035年までに新・排ガス規制をクリアすることが可能なのかどうか、今後のEV化の動向に注目される。

Mercedes-Benz:2039年までにカーボンニュートラル達成

Mercedes-Benzグループは、2019年5月に「Ambition2039」という中長期計画を発表。

この計画は、2039年までにサプライチェーンを含めた全社でカーボンニュートラル達成を目指す次のようなロードマップとなっている。

  • 2025年:全モデルにEVタイプを設定。新車販売の50%以上をEV車、もしくはPHEV車とする。
  • 2030年:2025年以降に販売される新型車の全てをバッテリー駆動に統一。充電インフラなどEV環境が整う市場において、新車販売の100%をEV車とする。
  • 2039年:カーボンニュートラル達成。

このロードマップ通りに計画が進めば、欧州において今後法令化が見込まれている新・排ガス規制をクリアすることが可能だが、事業全体における具体的な二酸化炭素削減目標については明示されておらず、今後どのようなプランで二酸化炭素削減を実行していくのかが注目される。

BMW:2030年までにCO2を40%削減

BMWグループは、2021年5月12日に開催された株主総会において、2030年までに二酸化炭素(CO2)排出量を2億t(トン)削減するという目標を発表。

具体的には、「2030年までに2019年比で二酸化炭素排出量をサプライチェーン含む全社で40%削減する」という目標になっている。

この目標達成に向けて、EV化も次のようなロードマップで行われる予定だ。

  • 2025年:2024年比でEV車の割合を50%増加、全車のEV車比率を25%にする
  • 2030年:2025〜2030年間は、毎年EV車の割合を対前年比20%で増加、全世界でのEV車比率を50%にする

BMWグループは、2021年時点でEVの累計販売台数100万台を達成しており、2025年までに200万台を、今後10年間で1,000万台の販売を達成する計画だ。

2035年の内燃機関搭載車の実質生産禁止に向けて、欧州市場における新車EV化率を100%にすることが可能なのかが、今後の焦点となる。

Renault:2030年までにBEVを90%へ

Renaultは、2021年6月30日に、2030年に向けた電動化戦略を発表。

  • 2025年までに電動車比率を65%(BEVが30%、XHEVが35%)に引き上げ
  • 2030年までには、BEV(※3)を90%にまで引き上げる

また、欧州で進められている新・排ガス規制「Euro 7」への対応に向けて、2022年1月13日には、2030年までに欧州市場における販売車を100%EV車とする目標を発表。

2021年6月に示したBEV(※3)90%以上という目標を、欧州市場のみ100%に引き上げ、前倒しで電動化を進めていく方針だ。

さらにRenaultは、電動化をさらに推し進めていくにあたり、「ルノー・日産・三菱アライアンス(※2)」において、2030年までに共通の5つのEVプラットフォームを使った35車種の市場投入を計画していると発表。

3社のシナジー効果を最大限発揮しEV化を促進していく方針だが、2022年5月12日にRenaultはEV部門の分離計画を発表した。

同年11月8日には、事業再編によりEV部門を分社化し、新会社Ampare(アンペア)を設立すると発表しており、新会社Ampareでは、ルノーブランドで2030年までに6車種のEVを投入、2031年までに100万台の生産を見込んでいる。

新会社Ampareにはアライアンスを組む日産と三菱も出資を要請しており、今後この出資が承認されるのかどうかによって、アライアンスの存続が危ぶまれている。

今後3社のアライアンスの行方が、Renault、日産、三菱の今後のEV化戦略に影響を与えることになると想定される。

Stellantis:2030年までにBEVを欧州で100%・米国で50%へ

Stellantisは、2022年3月1日に開かれたプレスカンファレンスにおいて、2030年までの中長期戦略「Dare Forward 2030」を発表。

  • 2038年のカーボンニュートラル化を目指す
  • 2030年までに、2021年比で、二酸化炭素排出量をサプライチェーン含む全社で50%削減し、BEV(※3)販売の割合を欧州で100%、米国で50%にする

それに伴い、Stellantisは、2030年までに75モデルのBEV(※3)ラインナップを市場に投入し、年間500万台のBEV(※3)の販売を目指している。

2021年7月8日に発表された電動化戦略では、2030年までに欧州市場では70%以上、米国市場では40%以上の販売車をLEV(EVを含む)とする目標を掲げていたが、「Dare Forward 2030」では、それらの目標を大幅に引き上げた形となった。

2022年9月8日には、「Dare Forword 2030」で掲げた目標を実現するための具体的な計画の1つとして、Jeepブランドにおける次世代電動4輪駆動車に関するEV化計画を発表。

2025年までに北米と欧州市場に、SUVのEV車を4車種投入し、2030年までに米国におけるJeepブランドの販売車の50%を、欧州においては100%をEVにする方針だ。

Volvo Cars:2030年までに販売全車種をEVへ

Volvo Carsは、2021年3月3日に、電動化戦略に関するプレスリリースを発表。

  • 2030年までに販売する全車種をEV車とし、HV車を含む内燃機関搭載車を段階的に廃止していく方針

2022年11月8日には、内燃機関の開発や製造からの完全撤退を発表し、保有する内燃機関関連の株式も2022年内に全て売却予定だという。

EV専業メーカーとして大きく舵を切ったVolvo Carsは、負けられない領域として、特にEV車の安全面における開発に力を入れており、安全性能を追求したEV車で市場での差別化を図る考えだ。

Jaguar Land Rover:2036年には全ブランドで100%ゼロエミッションに

Jaguar Land Roverは、2021年2月15日に、2039年のカーボンニュートラル化に向けた新経営戦略「Reimagine」を発表している。

  • Jaguarブランドにおいて、2025年から販売する全車種をEV車に転換する
  • Land Roverブランドにおいても、2030年までに6車種のEV車を市場投入し、EV車比率を60%以上にする
  • 2036年にはJaguarブランド、Land Roverブランドの販売車種100%をゼロエミッション車とする方針

GM:2040年までに全社カーボンニュートラルを実現

EV化の鍵となるUltium(アルティウム)バッテリーの開発をはじめ、自動車メーカーの中でも早い段階からEV化へシフトを積極的に進めてきたGMは、2021年1月28日にカーボンニュートラルの方針を発表している。

  • 2025年までに米国、2035年には全世界の生産拠点の50%をEV向けに変換し、バッテリー工場建設など安定したサプライチェーンの構築などを行う
  • 2035年には販売する全車種をEV化
  • 2035年までに乗用車と小型トラックの排ガス量ゼロ
  • 2040年までに全社におけるカーボンニュートラルを実現、あらゆるターゲット層に向けた30種類のEV車を投入する見込み

また、同社は温暖化による気温上昇を1.5℃抑えることを要請する誓約「Business Ambition Pledge for 1.5℃」にも署名しており、2035年までに全世界の工場で再生可能エネルギーを100%使用することも明言している。

GMは、元々2017年にGM子会社オペルを売却をきっかけに、欧州市場から撤退していたため2035年の新・排ガス規制を見据えた対応を早急に行う必要はなかった。

しかし、2021年11月にEV車と自動運転車で欧州市場に再参入することを発表。

今後どのようなラインナップを欧州市場に投下するのか、2035年の新・排ガス規制に向けてどのような対応を取るのかが、注目される。

Ford:2030年までに世界の新車販売の40%をEVへ

Fordは、2021年5月26日に、事業戦略として「Ford+」を発表した。

  • 2026年には欧州市場における全新車販売をBEV(※3)とPEVにし、2030年には100%EV化を達成する見込み
  • 2030年までに世界の新車販売台数の40%をEVにする

まずは欧州市場からEV化を進めて、その後北米、中国、南米と進めていく方針となっている。

Fordは、2021年3月31日の時点で、欧州市場における全新車をEV化するという目標を発表していたが、今回の「Ford+」によって、欧州市場のみならず世界の新車販売台数のEV化も促進していく考えを示した。

また、2022年3月2日に、2030年までに新車販売台数のEV車比率を40%から50%に引き上げ、その中間目標として2026年までに世界総生産台数の3分の1にあたる約200万台のEV車を生産するという目標に修正。「Ford+」で掲げた目標を一部引き上げた。

さらには、2035年までに事業全体で再生可能な電力を100%使用することも目標として加えられた。

まずは、2026年の中間目標が実現できるのかどうかが注目される。

Tesla:2030年までに年産2,000万台

電気自動車最大手のTesla(テスラ)のCEOイーロン・マスク氏は、2020年9月の独ベルリンの工場開所の際に「2030年までに年間2,000万台の生産規模を目指す」と発言。

  • 2030年までに年間2,000万台生産

2020年のTesla社のEV車販売数は約50万台であり、約40倍もの生産を見込む目標値を掲げたことが話題となった。

「到底不可能だ」とする意見が飛び交う中、2022年8月に開催した株主総会では、2030年までに150〜200万台の生産能力を持つ大規模工場を2030年までに10〜12箇所建設する準備が整ったことを発表し、「2030年までに年間2,000万台生産」という目標をより強調した。

Tesla社の2021年のEV車販売台数は約100万台。2022年は年間150万台の生産に達する見込みとなっている。

なお、ラインナップの100%が電気自動車であることから、欧州の新・排ガス規制「Euro 7」や2050年のカーボンニュートラル化については特に言及をしていない。

トヨタ:電動化戦略は見直し

トヨタは2021年5月12日に、2030年における電動車販売の目標を発表。

世界の各市場において、合計で電動車800万台(内200万台がBEV・FCEV)の販売を行うことを目指すとし、2030年時点におけるBEV(※3)・FCEV車比率目標については次のように掲げた。

  • 日本:95%(電動車、内10%がBEV・FCEV)
  • 北米:70%(電動車、内15%がBEV・FCEV)
  • 欧州:100%(電動車、内40%がBEV・FCEV)
  • 中国:100%(NEV・省エネ車、内50%がNEV ※2035年までの目標)

しかし、2021年12月のバッテリーEVに関する説明会において、今後のEV化戦略を発表。2030年までに30車種のEV車展開を行い、全世界で350万台のBEV(※3)車(内100万台がレクサスのBEV)を販売するという目標を示した。

  • 2030年までに全世界で350万台のBEVを販売

2021年5月に発表した「全世界でBEV(※3)車とFCEV車を合わせて200万台販売する」という目標を大きく引き上げたことから話題となったが、2022年11月時点で、トヨタの350万台という目標達成の鍵となるEVプラットフォーム「e-TNGA」の開発費用が高額なことや、採算が合わない可能性があることから、トヨタはEV戦略の見直しを検討。

依然としてHEVが好調であり、EVに対して今後どのような戦略修正を行うのか、また、欧州市場における新・排ガス規制「Euro 7」への対応をどうするのかなどが注目されている。

ホンダ:2030年までにEVで年産200万台超

ホンダは、2050年までに事業活動におけるカーボンニュートラル化を目指しており、2022年4月12日に、中間目標として今後10年間のEV化の戦略方針を発表。

  • 2030年までに全世界での販売台数の2/3以上を電動車へ

2030年までに全世界で30車種のEV車を展開し、年間生産台数200万台を超えることを目標として掲げた。また、2030年までに全世界での販売車数の3分の2以上を電動車(※1)にするとしている。

2022年4月23日の記者会見においては、地域ごとのEV化比率の具体的な目標値も次のように示している。

  • 2030年:40%(北米、中国)、20%(日本)
  • 2035年:80%(北米、中国、日本)
  • 2040年:100%(北米、中国、日本)

同記者会見では、2030年に日本において販売される新車の100%を電動車(※1)にする方針も示した。

日産自動車:2030年までに電動車で50%以上

2010年に日本初の量産EV車リーフを開発し、一時的にEV生産で世界のトップに立った日産は、2050年までに製品のライフサイクル全体でのカーボンニュートラル化を目標としている。

その実現に向けて、2021年11月29日に、日産は電動化を中心とした今後10年間の事業戦略「Nissan Ambition 2030」を発表している。

  • 2030年までに15車種のEVを含む23車種の電動車(※1)を市場投入
  • 全世界に販売する電動車(※1)のモデルミックスを50%以上に拡大することを目標
  • 2026年には、EVとe-POWER搭載車を20車種投入し、世界の各市場における電動車(※1)販売比率を次のように引き上げる
    • 日本:55%以上
    • 欧州:75%以上
    • 中国:40%以上
    • 米国:40%(EVのみ、2030年まで)

また、日産はRenaultと三菱とアライアンスを結んでおり、同アライアンスは共通の5つのEVプラットフォームを使った35車種の市場投入するなど、2030年に向けた具体的なEV化におけるロードマップも示している。

直近で注目すべきは2035年の欧州の新・排ガス規制「Euro 7」への対応

自動車業界は、世界各国の気候変動対策に大きな影響を受けている。

まず注視すべき気候変動対策の動向としては、2022年11月に欧州で暫定合意された「自動車の二酸化炭素(CO2)排出基準に関する規則の改正案」だろう。

正式に法令化されれば、「2035年以降の内燃機関搭載車の生産禁止」という、実質世界で最も厳しい排ガス規制となる。

まずは、この規制を各社どのような計画でクリアしていくのか、その計画や計画の進捗に今後も注目していきたい。


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※1 電動車:電気を動力として、または動力の一部として走行する自動車のこと。電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHEV、PHV)、ハイブリッド車(HEV、HV)、燃料電池車(FCEV、FCV)の4種類の総称

※2:ルノー・日産・三菱アライアンス:ルノー(仏)と日産自動車(日)、三菱自動車(日)が結ぶパートナーシップ関係

※3:BEV:バッテリー式電気自動車の略称


  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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