脱炭素・カーボンニュートラルの技術動向③(再生可能エネルギー)
脱炭素・カーボンニュートラルの実現に向けた各国の技術動向について3部に分けて解説しているが、今回はその3回目として再生可能エネルギーを取り上げる。
すでに世界中で導入が進んで時間が経った再生可能エネルギーであるが、改めて世界でどのように取り組まれているのか、その技術開発はどう進展しているのかについて概要を整理していく。
再生可能エネルギーの現状と今後
世界の再生可能エネルギーの状況を把握するには、IEAが毎年発行しているレポートが大変参考になる。IEAのWorld Energy Outlook2022を見ていこう。
そして下記のインフォグラフィックが、現状と今後の電源について抑えるのにとてもわかりやすいので引用する。
現状と2030年における電源構成の予測分析(WEO2022)
上記の図の見方であるが、ポイントは2つである。
Point1. 2010年・2021年・2030年の時系列で整理されている
Point2. 2030年はSTEPS(公表された政策ベースのシナリオ)・APS(公表されている公約ベースのシナリオ)で整理されている。
注1) STEPSは各国政府が目標達成のために実際に行っている政策と整合を取った値、APSはあくまで各国政府が約束している目標値を全て達成した場合の値であり、STEPSはより具体化されたシナリオ、理想的にはAPS、と理解できる。
注2) 水力発電もある程度の割合を占めそうであるが、上記のインフォグラフィックや他のデータでは確認できなかった。データとしては水力が抜けている可能性に留意する必要がある。
電力源で大きく成長するのは再生可能エネルギー一択
上記を見ていくと、電源構成は、2021年には化石燃料ベースの電源が62%だったのに対し、STEPSベースで2030年には47%まで下がり、再生可能エネルギーは28%→43%まで拡大する。
2021年に8,060TWhだったのが、2030年には実に15,070TWhまで成長する。
原子力は発電量ベース(TWh)では伸びるものの、電力構成の割合としては10%のままで横ばいと想定されているため、今後の電源として成長するのは再生可能エネルギー一択となっている。
世界各国で再エネの導入を促進
主要地域での状況を見ると、日米欧全ての地域で再生可能エネルギーの導入は積極的に推進される。
既知ではあるが、中でも欧州は比較的再生可能エネルギーの導入が進んでいる。
資源エネルギー庁が作成する2019年度「主要国の発電電力量に占める再エネ比率の比較」によれば、ドイツ、イギリス、スペイン、イタリアの欧州各国では再生可能エネルギーが占める割合が30%を超えているのに対して、日本や米国は20%を下回っている。
ドイツをはじめとする欧州は、太陽光、風力、バイオマスによる発電に力を入れており、再生可能エネルギーの普及率の高さを支えている。
EUの欧州委員会は、2030年における温室効果ガスの排出量を1990年対比で55%削減する施策「Fit for 55」を発表し、これに伴い再生可能エネルギーが占める割合を現行の少なくとも32%から少なくとも40%へと引き上げる目標を立てている。また2022年になりこの数値は、昨今の世界情勢を踏まえ、45%とさらに引き上げられている。
また米国では同国エネルギー省から、電力網の脱炭素化を目指すために、2035年までに太陽光発電により全米の電力消費量の40%を賄う取り組み「Solar Future Study」が発表されている。
一方日本においては、2021年に第6次エネルギー基本計画が発表され、エネルギーミックスに関して、2030年における再生可能エネルギーが占める目標割合を現行の22~24%から36~38%へと引き上げる改定が行われている。
太陽光・風力発電・その他という構成
そして、再生可能エネルギーの内訳をみてみると、特に成長が著しいのは太陽光と風力発電となっている。なお、その他の中にはバイオ燃料、集光型太陽光発電、地熱、海洋発電などが含まれている。
単位:TWh | 2021年 | 2030年 |
PV | 1000(12%) | 4010(27%) |
風力発電 | 1870(23%) | 4600(31%) |
その他 | 5190(64%) | 6460(43%) |
欧州では、再生可能エネルギーとして、太陽光、洋上(風力、波力、潮力など)、陸上風力、バイオ、水力のエネルギーを掲げている。
特に太陽光はいずれの国においても再生可能エネルギーの主力として考えられており、例えばドイツにおいては、2020年における太陽光発電の設備容量が約50GWであるのに対して、2030年には200GW、そして同国が気候中立達成を掲げる2045年には400GWにする目標が設定されている。
もちろん各国が注力するのは太陽光発電だけではない。
次世代の再生可能エネルギーとして注目される1つに挙げられるのが、水素エネルギーである。
日本では、2017年に策定された「水素基本戦略」の中で、再生可能エネルギーとして水素エネルギーの活用が盛り込まれている。
水素は、水の電気分解や、石油・天然ガスなどの化石燃料、メタノール・エタノール等のアルコール類などから作りだすことができ、酸素と反応させたり、燃焼させたりすることでエネルギー源として活用することができる。
なお水素はエネルギー生成過程でCO2を排出しないため注目されているわけだが、カーボンニュートラルの観点では水素を生み出すプロセスにも重要性が置かれている。
例えば石油・天然ガスなどの化石燃料を使って水素を生み出すと水素の生成過程でCO2が発生してしまう。このような水素は「グレー水素」と呼ばれ、脱炭素化の実現においてはこのましいものではない。
そこで注目されているのが、「ブルー水素」や「グリーン水素」と呼ばれる生成過程においてもCO2を排出しない水素の活用である。
ブルー水素は生成過程で発生するCO2を分離・回収して大気中に排出しないプロセスで作られる水素を指し、グリーン水素は再生可能エネルギーを使った水の電気分解によりつくられる水素を指す。
グリーン水素は、再生可能エネルギーの循環プロセスに組み込まれるため最も有効なエネルギー源といえるだろう。
再生可能エネルギー技術に取り組む事例紹介
では、再生可能エネルギーの技術開発の動向について、具体的な事例を取り上げながら紹介していく。
グリーン水素の製造・利用による水素エコシステムの構築を目指す技術開発(日本/三菱重工業)
三菱重工業は、グリーン水素を活用した再生可能エネルギーの開発に力を入れている企業の1つである。
同社は、水素を燃料とする水素ガスタービンの早期商用化に向けた開発を行っており、現在兵庫県に水素製造から発電までの技術を一貫して検証するための施設「高砂水素パーク」の整備を進めている。
この施設は、同社が既に保有する実証設備複合サイクル発電所に隣接して整備されるもので、2023年度の稼働開始に向けた準備が進められている。
この施設では、水電解装置(水電解方式)による水素製造のほかに、メタンを水素と固体炭素に熱分解すること(メタン分解方式)によるターコイズ水素の製造といった次世代水素製造技術の試験・実証を行うことが検討されている。
水電解方式、メタン分解方式によって製造された水素は、水素貯留設備に一旦貯留され、大型或いは中小型のガスタービンへと送られ発電利用される。このうち大型ガスタービンでの発電は、地域電源グリッドとしての活用が見込まれている。
同社によると、今後関連設備を順次拡充していき、2025年に大型ガスタービンで30%混焼、中小型ガスタービンでは100%専焼の製品を商用化していく計画を立てている。
三菱重工グループは、カーボンニュートラル社会の実現に向けたエナジートランジション戦略を推進しており、同施設の技術開発はこの戦略の一環となる。
三菱重工業は2022年6月に、安価なグリーン水素の製造を目指している米国のエレクトリック・ハイドロジェンに出資することを発表しており、同社のグリーン水素を活用したエコシステムの技術開発が注目される。
風力×太陽光×波力による洋上ハイブリッド発電のプロジェクト(欧州/EU-SCORES)
洋上発電の事例を1つ紹介しよう。
オランダ海洋エネルギーセンターが主導するプロジェクトであり、欧州委員会の資金調達プログラムHorizon 2020の1つであるグリーンディールプロジェクト「EU-SCORES」は、洋上での風力・太陽光・波力を組み合わせた発電に関する実証を行っている。
このプロジェクトは、既に設置される洋上風力発電設備と同じ場所に、太陽光発電と波力発電の設備を配置して、風力、太陽光、波力を組み合わせたハイブリッド発電設備を構築するものである。
風力発電は風力が弱い状況では発電能力が低下するという決定があり、安定供給に課題がある。そこでバランスの取れた発電出力を実現するために、ハイブリッド発電の概念が提案されプロジェクトとして立ち上がった。
太陽光発電はオランダのエネルギー企業Ocean of Energyが、波力発電はポルトガルのエネルギー企業CorPower Oceanがそれぞれ技術開発を担っている。
Ocean of Energyは3MWの系統連系型洋上太陽光発電システムを開発し、この設備はベルギー沖2kmのBlue Acceleratorテストサイトに設置される。今回のプロジェクトでは、風力発電所と補完的な生産プロファイルの構築や、既存のインフラへの電気的統合、大型浮体構造物としての存続率などに焦点を当てた検討が行われる。
このシステムは2023年初めに設置される予定であり、その後約2年間配備され、ベルギー国内の送電網に継続的に電力供給を実施することが計画されている。
一方のCorPower Oceanは1.2MWの波力発電アレイを開発しグリッド接続させる。洋上風力発電との生産プロファイルの比較や、風力発電設備との相互接続に向けた浮体式電気接続ハブの検討などが行われる。
このシステムも2023年初めに設置される予定であり、その後約2年間配備され、ポルトガルのローカルグリッドに継続的に電力を供給することが計画されている。
このように同プロジェクトは、風力、太陽光、波力を組み合わせたマルチソースにより、オフショアスペースをより効率的に使用するとともに、電力網のバランスを取り、回復力と費用効果の高い100%再生可能エネルギーシステムを実現する取り組みとして大いに期待されている。
バイオマスにおるエネルギーソリューションの開発(米国/USA Bioenergy)
USA Bioenergyは、バイオマスを活用した再生可能燃料の開発を行う米国のベンチャー企業である。
同社は、持続可能な方法で調達された木質廃棄物を再生可能ディーゼルや航空燃料、ナフサなどへ変換することを得意とし、次世代の高度バイオリファイナリー(精製工場)の開発を行っている。
具体的には、木質廃棄物原料をガス化した後、CO2や硫黄化合物を除去する酸性ガス除去工程などを経てガスを調整し、調整されたガスをフィッシャー・トロプシュ法として知られる反応過程を通して反応液と合成することにより燃料等へ変換する。また回収されたCO2は圧縮され、パイプラインで地下深くの永久地層貯留所に輸送される。
特にCO2回収・貯留プロセスまで含むことでカーボンニュートラルなバイオ燃料を実現できる点が特徴となっている。
同社は、上記プロセスを活用した木材廃棄物の利用可能性について調査を実施しており、2022年3月には米国テキサス州において十分な原料(木材廃棄物)が存在するという調査結果を発表し、商業化に向けて準備を進めている。
上記のCAAFIのカンファレンスでは、第1期で、年間3400万ガロンの燃料を生産する予定であり、そのうち2500万ガロンは持続可能な航空燃料として生産すると言及している。
再生可能エネルギーを統合した農業ソーラーファームの構築(オーストラリア/Redmud Green Energy Project)
また、少し変わった切り口であるが、農業×再生可能エネルギーの取り組みについても触れておく。
Redmud Green Energy Projectは、オーストラリアのエネルギー企業Yates Electrical Servicesによって2016年に立ち上げられた農業ソーラーファームのプロジェクトである。
このプロジェクトでは、南オーストラリア州のリバーランドにあるぶどう畑などの農作地の中で使われていない土地に太陽光発電設備を設置することにより、従前の農法から太陽光エネルギーを活用した農法へ切り替えた農作が実施されている。
プロジェクトの太陽光発電で生み出される電力は、ブドウなどの農作に使用されるだけでなく、発電収入にも繋がっており、オンサイトの再生可能エネルギー資源による地域経済への還元や、雇用の創出、地方への新しいマーケットの導入などの効果も生み出している。
このプロジェクトは、未利用の土地を再生可能エネルギー資産で再活性化する革新的な方法として、オーストラリアにおけるネットゼロへの移行を実現する重要な役割を果たすものとして注目されている。
再生可能エネルギーは定点観測が必要
ここまで見てきたように、世界各国で再生可能エネルギーの推進は積極的に行われているが、その状況については都度変わっていくことが想定される。
- 技術革新の有無
次世代太陽光発電や水素関連技術の進展
波力などの新規エネルギー源の開発等 - 政策動向
特にロシア・ウクライナ戦争に端を発する欧州における電力高騰の問題への対応
気候変動による影響など - EV普及による影響
EVが普及することで急速に電力需要が拡大する可能性など
上記のような要素は時々刻々と今後の状況に影響を与える。
技術的な側面を見ると、例えば今後将来的に導入がさらに進む太陽光発電においては、すでに既存の多結晶型太陽電池についてはほぼ中国企業によって占有されてしまったが、一方で次世代型太陽電池として、ペロブスカイト構造や量子ドットPVなどの研究開発は日本企業でも進められている。
また、事例で紹介したが、洋上風力の間に太陽光発電パネルを敷き詰めた新しいハイブリッド発電の形なども、どのように事業化されていくか、判明していくのはこれからだ。
このような技術面・政策面・市場面含めて、再生可能エネルギーの市場動向を定点観測していく必要があるだろう。
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