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Luminar Technologiesの第二四半期ビジネスアップデート

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アメリカのLiDARベンチャー企業であるLuminar Technologies(以下Luminar)が、2023年第二四半期(Q2)の決算発表およびビジネスアップデートを発表した。

どのような発表が行われたのか、ポイントを絞って内容を解説していく。

Luminarがどのような企業なのか、LiDAR業界の中での立ち位置はどのようなものか、そもそもLiDARとは何なのかを知りたい方は、以下の当社の記事を参考にされたい。

今回のビジネスアップデートのポイントは以下の4点である。

  1. 2023年の年間目標を達成する見込み
  2. 既存、新規のOEMパートナーとの連携を強化
  3. 新規取引によるソフトウェア、AI、半導体開発の加速
  4. 第二四半期の収益とEPSが予想を上回る

それぞれのポイントについて詳細に解説する。

2023年の年間目標を達成する見込み

Luminarは以下の三つの項目について、それぞれ2023年の年間目標を発表している。

  • 事業拡大
  • 技術開発
  • 受注

それぞれの目標と、Q2における達成状況及び進捗をまとめる。

出展:Luminar2022年第四四半期ビジネスアップデート資料より

事業拡大:年内に自動車メーカーのSOP要件を満たす

2023年の目標:メキシコにて大量生産が可能な工場を稼働し、ボルボのSOP要件を満たす≒生産準備を完了すること。

現在の状況:Q1(第一四半期)の終わりにメキシコ工場のオンライン化が完了しており、現在すべての自動車メーカーのSOP要件を満たすための活動を行っている。メキシコ工場のオンライン化は、当初の計画よりも前倒しで進行している。

Q2においては、メキシコに引き続きアジアにおける高生産量工場の建設に向けてTPK Holdingとパートナーシップを締結した。

技術開発:Volvo / メルセデスのソフトウェア要件向けに開発

2023年の目標:Iris+(Luminarの長距離LiDARの新製品)において、ボルボ及びベンツのプログラムソフトウェア要件を満たすこと。

現在の状況:予定通り進行中。

受注:商用トラックにも展開し受注残を拡大する

2023年の目標:Order Bookに少なくとも10億ドル追加する

現在の状況:新規及び既存の顧客との間で、ハードウェア、ソフトウェア/AI、半導体分野で契約を締結している。Q2には、運転支援ソフトウェアを手掛けるPlus※2と提携。商用トラックにLuminarの技術が搭載される予定。

注)Order Bookとは、Luminarが独自に定義している用語である。Luminarの製品の寿命および車両生産計画に基づいて請求できる金額を見積もり、Order Bookに追加している。LuminarはOrder Bookを、マイルストーンの達成状況を確認するための指標として活用している。

既存、新規のOEMメーカーとの連携を強化

Q2の主なトピックスは以下の通り。

  • LuminarのLiDARを搭載したPolestar 3がPolestar社のWEBサイト(リンク)より購入可能になった。Polestar社はハイエンド電動SUVを生産するスタートアップ企業で、ボルボの出資を受けている。
  • 日産自動車が交差点の衝突回避の技術を発表した。この技術にはLuminarのLiDARが搭載されている。
  • 自動運転ソフトウェアを手掛けるMobileye※4が、Luminarを長距離LiDARにおけるパートナーとして選択した。

既存のメーカーとのパートナーシップは順調に進行しつつ、新たな顧客も獲得していることをアピールしている。

新規取引によるソフトウェア、AI、半導体開発の加速

ソフトウェア/AI:Scale AIとの連携

Q2において、Luminarはソフトウェア開発に関する外部提携を開始した。

内容は、新しく機械学習ベースのソフトウェアを開発するための、AI企業のScale AIとの提携である。

LuminarのLiDARによって取得したデータを、Scale AIによる教師データと組み合わせてニューラルネットワークによる機械学習を行い、最終的には自動走行や危機検知を行うソフトウェアの開発を目指している。Luminarはこの一連の機能を持ったソフトウェアを”Luminar AI Engine”と呼んでいる。

出典:Luminar第二四半期ビジネスアップデート資料より

Luminarと言えば、半導体チップレベルから設計を行っているように、ハード面での技術力が強みの印象が強いが、外部と連携することでソフト面についても積極的に活動を行おうとしている模様だ。

半導体:チップデザインの企業を統合

Luminarは2023年に、チップデザインを手掛けている子会社を統合し、Luminar Semiconductorを設立している※5

設立して間もないが、Q2の時点ですでに複数の外部契約を勝ち取った、と報告している。具体的な企業名は公表されていないが、光ファイバーソリューション業界のリーディングカンパニーと、複数年の光検出器の供給契約を結んだようだ。

また契約ではないが、画期的なレーザー技術を開発したとの理由で、NASAよりNASA Tipping Point Awardを受賞している。

自社向けの半導体チップデザインだけでなく、外部にも半導体を供給することで販路を拡大しようとしている姿勢が見られる。

第二四半期の収益とEPSが予想を上回る

2023年第二四半期の総括

Q2の収益は1620万ドルとなり、前年同期比にくらべ63%向上した。また、Q1Q2の収益の合計は、2023年の目標売上の半分をわずかに上回っている。

EPS(一株当たり利益)はマイナス0.21ドルと、当初の予想を上回っているようだ。

今期のフリーキャッシュフロー(FCF)はマイナス7850万ドルである。この中には、大規模工場立ち上げのための約マイナス2400万ドルも含まれている。Luminarによると、生産準備の進行に伴って、Q4に向けFCFは急速に改善する見込みである。

現時点でLuminarが保有している現金および流動性資産(Cash and Liquidity)は3億6580万ドルである。 

2023年下半期の計画

収益

第三四半期の収益は1800万~2100万ドルの見込みだ(今期は1620万ドル)。粗利益に関しては、第四四半期での黒字化に向け、順調に進行中であるとのこと。今期の粗利益はマイナス1620万ドルと大きく赤字であり、今後の決算が注目される。

フリーキャッシュフロー(FCF)

第四四半期のFCFは第一、第二四半期と比較して最大50%改善する見通しだ。

第二四半期におけるFCFはマイナス7850万ドルと大きくマイナスになっているが、現在Luminarは工場の設立など大規模な投資を継続中であり、このような立ち上げ関連の費用、設備投資、運転資本の支出は今後減少していくためFCFは改善すると考えられる。


参考文献:
※1: Luminar Reports Strong First-Quarter 2023 Business Update and Financials |Luminar Technologies(リンク
※2: Luminar and Plus Partner for LiDAR and AI-Based Assisted Driving Software for Trucking|Plus(リンク
※3: Luminar Provides Business Update with Q4 and Full-Year 2022 Financials|Luminar Technologies(リンク
※4: Mobileye|Mobileye(リンク
※5: Luminar’s New Semiconductor Entity, Product Roadmap|DVN(リンク


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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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