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CVCを通じたオープンイノベーションを積極的に行うAirbus

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脱炭素やサステナビリティ、DXなど、様々な新規領域や融合領域が誕生し、変化の早い状況において、イノベーションの実現は企業存続の鍵となっている。

そうした中で、これまでの、従来の社内リソースによるクローズドイノベーションだけでは変化の早さについていくことはできない。多くの企業が、従来のリソースやネットワークの枠を飛び越えたところで、オープンイノベーションを積極的に活用するようになってきている。

Airbsuはオープンイノベーションをグローバル大に積極的に活用する1社であり、特に傘下のCVCであるAirbus Venturesの活動は非常に活発である。今回はこのAirbusのオープンイノベーション、そしてCVCの活動について焦点を当てる。

欧州を代表するグローバル航空機メーカーであるAirbus

Airbusは1970年に設立された旧EADS(European Aeronautic Defence and Space)を前身とする、フランスの航空機メーカーである。

航空業界では米ボーイングと2大巨頭の1つとして知られており、年間の売上は直近の2023年度で65.4b€(約10兆円)という巨大企業だ。グローバルでは約134,000人の従業員を抱える。

主な事業領域であるが、2023年度の売上構成は主力事業の航空機製造であるAirbusが72%を占めており、残りヘリコプター事業で11%、防衛・宇宙事業で17%を占めるという構成となっている。

Airbusの事業別売上高比率(2023年度)

Airbus IRより作成

Defence and Spaceの事業は機体(ハード)の製造だけでなく、通信等のシステム周りや保守運用含めた機体の管理にも力を入れている。航空機や衛星は相互接続のためのシステムが組み込まれており、それらシステムを守るためのセキュリティ領域も事業として行っている。

このように、航空機製造を中心としながらその周辺領域も幅広く手掛けているのがAirbusの事業である。

オープンイノベーションを積極的に活用

Airbusにおけるオープンイノベーションは、過去の動向を見ていくと、おおよそ2015~2016年あたりで積極的に行われていくようになった様子が伺える。

元々は、オープン・イノベーション・プロセスの一環として、技術移転やライセンス契約を通じて、厳選した特許や専門知識を提供する、いわゆる「シーズアウト」的なオープンイノベーションを中心に行われていたことが、過去のAnnual Reportから伺える。

そうした中、2015年に、航空宇宙産業において「常識を打ち破る革新的な技術力を有するスタートアップへの投資を目的」に、Airbus VenturesをCVCとして設立した。

投資分野は、航空宇宙関連に限らず自動運転、電動化、脱炭素、材料、製造システム、次世代コンピューティング、センシング、セキュリティ等多岐に渡る。

幅広い分野に投資しているが、投資先の技術に着目すると、本体であるAirbus社との事業シナジーを目的としていることが強く伺える。いわゆる「ストラテジック」の色合いが強いCVCということができるだろう。

さらに同年、スタートアップにアクセラレーションプログラムを提供することを目的としたAirbus BizLabを世界4拠点フランス・マドリード・ドイツ・インドにも開設している。

また、2016年にはCTOに関連する大幅な組織変更が行われ、より機敏で、革新的で、エアバスのニーズに沿ったものとなるための変革プログラムを進めるようになる。

CTOがAirbus全体のR&Dのロードマップを策定し、外部の研究コミュニティとのコラボレーションを奨励し、特に技術的・科学的専門家とのオープンイノベーションを通じてパートナーシップを発展させる責任を負うことになった。

2016年7月にCTOに就任したのがPaul Eremenko氏であり、2015年からAirbusのシリコンバレー拠点の責任者を務めていた人物であることから、この頃はシリコンバレーなどの新興技術の活用を強く指向していたと想定される(ただしこの人物は2017年末には退社している)。

現在では、オープンイノベーションを進めるための9つの組織が整備され、各組織に明確な役割が与えられ、イノベーションの創出が進められている。

Airbusのオープンイノベーション関連の組織全体像

Airbus公開情報より当社作成

スタートアップの新興技術発掘の先兵となるAirbus Ventures

前述のように、Airbus Venturesは航空宇宙産業に影響を与える新興企業へ独自に資金を提供する独立した部隊として設立された。ファンド規模はCrunchbaseによると、1号ファンドで150m$、2号ファンド以降の規模は不明で、現在4号ファンドまで立ち上がっている。

このAirbusにおける新興企業発掘の先兵となっているAirbus Venturesがどのような投資を行っているのか見てみよう。

設立から約8年で54社のスタートアップへ投資を実施

Airbus Venturesがこれまでに投資をしてきたスタートアップを見てみると、合計54社、85件の投資を行っている。

最も多いのがスペーステックであるが、ドローン、次世代コンピューティング(量子コンピュータ等)、先端素材・部材(繊維素材や半導体)など、非常に幅広い領域へ投資を行っていることがわかる。

分野別の投資件数傾向

Crunchbaseより当社作成

シリーズA+Bが67%を占める

投資フェーズについて件数をカウントしてみると、全体85件のうち、シリーズAまたはBでの投資が67%を占めており、ラウンドのシリーズ定義が不明なVentures - Series Unknownも含めると、実に約80%の投資がシリーズA・Bあたりで行われていることになる。

資金調達フェーズ別件数の割合

Crunchbaseより当社作成

これはCVCではよくある形だ。シードステージだとまだ企業の技術開発が進んでおらず、特にディープテックでは評価が難しいことが多い。そのため、通常はある程度技術が形になってきて、実証できるフェーズにさしかかるシリーズAやシリーズBでの投資の方が、CVCとしてはやりやすい。

なお、年後との推移でみると以下のようになっている。なお、通常CVCでは、最初アーリーステージ、シリーズAあたりで出資を行い、そのあとモニタリングを行い、技術開発や事業が上手く進捗していると次のラウンドでも追加出資を行う。同社においてもこのパターンは当てはまり、2017・18年頃に出資をしたシードやシリーズAのスタートアップに追加出資をするケースがシリーズBやCへの投資へと繋がっている。

つまり、基本的にはシリーズA周辺での投資をメインとしている。

Airbus Venturesの投資件数推移

Crunchbaseより当社作成

以降、Airbusによるいくつかの興味深い投資領域について見ていこう。

手触り感のある既存事業やその周辺に活かせる領域へ投資

AirbusのCVCがどのような技術領域に投資をしているのか、より具体的に見ていったのが下記のまとめとなる。全ての技術領域をラベリングしているわけではないが、主なものは記載されている。

Airbus Venturesが投資をした技術領域のまとめ

当社作成

上記の整理から、Airbus VenturesにおけるCVC投資のポイントは以下だ。

1. 非常に手触り感のある(=具体的に活用がイメージできる)領域へ投資をしていること、決して飛び地ではない

同社の投資領域を見ると、いわゆるエアモビリティ全般を対象としているが、非常に手触り感のある、具体的に活用がイメージできそうな分野に投資をしているということが1つのポイントである。

例えば業務革新・効率化の文脈では、3次元計測LiDARは飛行機や衛星などの組み上げ時に、歪みなど組み立ての検査で利用することができるだろう。また、工場内で利用するドローンは実際に工場における運搬を効率化し得る。

事業は上手くいかずに事業停止となってしまったが、自動車を3Dプリンタで作ろうとしたLocal Motorsへの投資は、将来的に自動車→航空機・衛星への展開を想定したものであったことが容易に想像できる。

事業領域においては、電動推進システムや電池などの電動化、通信ネットワーク・高度無線通信、半導体や先端材料・リサイクルなど、自社の事業に使える技術であることが容易に想定できる分野ばかりである。

さらに、新規事業・サービスとして、衛星画像を活用した測量・解析システムや、ドローンを活用したシステム全般、衛星軌道追跡サービスなど、既存事業の周辺領域でのサービス化を狙った分野に投資を行っている。

2. 短期的に活用可能性のある技術への投資をメインとしつつ、中長期で自社に破壊的な影響をもたらし得る領域にも張っている

一般に、中長期の先端技術となればなるほど、実現したときのインパクトは大きいが、実現するかどうかわからない、自社への影響範囲が読みにくいなどのリスクが大きくなる。AirbusのCVCは、こうした中長期の破壊的イノベーションへのアクセス・モニタリングという機能もあるように見える。

特に航空機・宇宙産業に影響を与える基盤としての量子コンピューティング分野への投資がわかりやすい。

Airbusは量子コンピューティングに関連する技術を開発する複数のベンチャー企業へ投資をしており、同分野の技術を応用しようという積極性は際立っている。

Airbus Venturesによる量子コンピューティング分野への出資事例

  • C12 Quantum Electronics社:量子プロセッサ
  • IonQ社:イオントラップ型量子コンピュータ
  • Q-CTRL社:量子計算安定化の基盤ソフトウェア
  • QC Ware社:量子コンピューティングアルゴリズム
  • Qunnect社:量子通信

上記に見られるように、量子コンピューティングに関する様々な要素技術を支援している。

2019年に量子コンピューティングに関するコンペティション「Airbus Quantum Computing Challenge(AQCC)」を開催している。現在でこそ巨額の資金が流入している量子コンピューティングであるが、Airbus社は2019年時点にはすでに、将来の破壊的なイノベーションの可能性として、量子コンピューティングに着目し、航空宇宙産業の重要な問題を解決し、航空機の製造方法と飛行方法を劇的に変更できるかどうかを模索している。

このように長期的に自社の業界に破壊的な影響をもたらす領域へ投資をし、最先端の技術へのアクセスとベンチャーと自社双方で、その技術の活用可能性の模索にコミットをするという形はとても興味深い。

重要となる技術を育成するスタンス

さて、これまで見てきたように、様々な分野へ投資をしているAirbus Venturesであるが、従来のメーカーのスタンスで考えると、「技術ができてから顧客として利用する」形であればリスクが無い。

しかし、それにも関わらず、なぜあえてCVCを通してこうした分野へ投資を行っているのだろうか。

それは、技術が実現してから顧客で利用するのでは遅く、先端技術を率先して育成し、イノベーションをリードするという意図・スタンスが伺える。

これは直接Airbusに聞いたわけではないが、ある別の米国最大手の一般消費財企業の技術評価を行う担当者とディスカッションした時の話だ。

「当社は組織の大きな目標を実現するために、まだ成熟していない技術に対して、ただの顧客という立場を超えて、自ら投資を行う。技術を育成して実用化を手伝うことで、将来の優れた技術へのアーリーアクセスと、リーズナブルなコストで提供をしてもらう交渉権を持つのだ。」

これは、オープンイノベーションやその手段であるCVCを運用していく上で、先端技術分野では非常に重要なスタンスである。

先端技術分野では、量子コンピューティングに代表されるように、将来が読みにくく、時間がかかるが実現した時には産業への影響が大きい領域を扱うことになる。こうした領域に対して、技術がある程度成熟するのを待っているというのはスピード感が遅くなってしまう。リスクを取らずにお試しのPoCを小規模に行う程度では、その技術のポテンシャルを見極めるまで至らず、技術の味見で終わってしまう。

先端技術のポテンシャルを見極めるためにも、双方の一定期間のコミットメントが必要であり、CVCというのはそのコミットメントの1つとしてとても有効な手段となる。

昨今、日本においては特にCVCブームとなり、様々なCVCが立ち上がっているが、こうしたスタンスや戦略を明確にすることは、CVCをストラテジックに機能させるカギとなるだろう。


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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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