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日本の気候に合ったソーラーのカタチ「縦型太陽光パネル」。その可能性と現状

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積雪は太陽光パネルによる発電量を著しく低下させるが、これを回避する方法として「縦型太陽光パネル」が注目を集めている。シンプルなソリューションながら、縦型でも十分な発電量を確保できるようにさまざまな工夫が施されているのが、その理由だ。

本稿では、縦型太陽光パネルの設置事例や角度による日光照射量の実効的変化について解説する。

縦型太陽光パネルとは|日本国内の設置事例

冬季の降雪時、通常の太陽光パネルは雪に覆われ、発電量が実質ゼロになってしまう。よって、世界有数の豪雪地帯である北海道や東北、日本海側地域では、降雪のため太陽光パネルの発電効率が低い。

縦型太陽光パネルは、こうした問題の解決を図るため開発されたものだ。縦型太陽光パネルとは、太陽光パネルを地面に対して垂直に設置する方式を指す。 ドイツに本社を置くLuxor Solar GmbHは、特殊用途のさまざまな太陽光パネルを取り扱っている。この日本法人であるルクサーソーラーが、エア・ウォーター社と共に縦型太陽光パネルを札幌市内の駐車場に設置した事業者である。

ルクサソーラーとエア・ウォーターにより設置された縦型太陽光パネル

(本写真はエア・ウォーターのプレスリリースより)

冬季でも発電できることに加え、地上からパネル最下部まで2m以上の高さを確保したため駐車場を走るドライバーの視線を遮らず、安全面にも配慮されたもの。

これまで広い設置面積が必要だと考えられてきた太陽光パネルだが、縦型の場合、空間を垂直方向に利用するため設置に必要とする面積は小さい。建物壁面や牧草地、農道脇など、パネルを設置できる場所が増えることで、用途の拡大が見込めそうだ。

パネルの角度と照射光量から見る縦型太陽光パネルのデメリット

ここまで縦型太陽光パネルの利点を紹介してきたが、縦型であることのデメリットも存在する。最も致命的なデメリットは、実効的な照射光量の減少だ。

太陽光パネルは日光の照射方向に対して垂直に設置することで最大の効率を発揮する。もちろん、地上から見た太陽の向きは時々刻々変化し、季節によっても変わってくるため、パネルを常に太陽と垂直に向けられるわけではない。

また、適切なパネルの傾斜は設置場所の緯度、高度、周辺建物などにも関係する。下表は、日本の主要都市における最適なパネル傾斜角を計算したものだ。

NEDOが算出した太陽光パネルの最適傾斜角まとめ

都市最適傾斜角
札幌市38°
青森市32°
新潟市29°
渋谷区37°
名古屋市36°
大阪市34°
広島市33°
福岡市31°
鹿児島市32°
那覇市22°
気象庁のアメダスデータを基に作成されたもの。0度が地面と平行に設置する場合、90度が縦型太陽光パネルのことを指す

上述の通り、光の照射量は照射方向に対して垂直で最大となり、そこから角度としてΘずれると、実効的な受光面積がcosΘ倍される。

例えば、最適な傾斜角が30度の場合、これを縦型太陽光パネルにすれば、実効的なパネルの面積はcos(90°-30°)=1/2倍となる。つまり、約50%の発電量減少だ。

もちろん、季節によって変化する日射量を考慮すれば上記のような単純な計算はできず、最適傾斜角の大きな冬期では縦型パネルによる減少量は少ない。縦型太陽光パネル設置の是非は、この角度による発電量減少と降雪による発電量減少の大小で決定するものと考えられる。

デメリットをカバーする両面発電とは

前節で、縦型太陽光パネルは最適な傾斜角から外れることで発電量が減少すると述べたが、ルクサーソーラー製縦型太陽光パネルでは、この逸失した発電量を補う工夫が施されている。それが両面発電だ。

傾斜の少ない太陽光パネルでは背面が陰になりやすいが、縦型パネルでは地面からの反射で背面に光が当たりやすく、これを発電に利用できる。

通常、太陽光パネルの背面は電極が光を遮るため半導体層まで届く光が制限される。そこで両面発電用パネルでは透明導電極が用いられるが、これは特段新しい技術ではない。私たちが普段使っているスマホのタッチパネルなどにも活用される信頼性の高い技術だ。

環境による発電量の変化

背面に当たる光の量はさまざまな要因で変化する。地面の光反射率が高ければ背面への反射も増えるため、アスファルトのような黒い地面より、白色コンクリートの上に設置した方が効果は高い。

また、世界的な豪雪地域である青森や北海道では、積雪が背面発電効率の向上に大きく寄与することが期待される。積雪の条件がパネルの種類とうまく適合すれば、片面発電の2倍近い効率が得られることも報告された。

雪は全波長域に渡って高い反射率を持ち、加えて細かな粒子の集合であるため光をあらゆる方向に散乱させる。スキーなどのウィンタースポーツにおいて、ゲレンデの反射光によって人体が日焼けをするのも、雪が高い光反射率を持つためだ。

総合して、縦型太陽光パネルは豪雪地帯と非常に相性の良い方式と言えるだろう。

東西に向けることで発電時間をずらす

電力の価値は需要と供給の関係によって常に変化する。電力需要に対して供給過剰となれば電力の価値は相対的に低下するため、太陽光で最も発電量の多い正午ごろの電力は夜間に向けて蓄電されることが多い。

縦型太陽光パネルは、このような電力の需要供給バランス改善へ一つのオプションを提示する。通常、南向きに設置される太陽光パネルを敢えて東西へ向けて設置することで、発電量が多い時間帯を通常の太陽光パネルとずらすことが可能だ。正午の前後に2度の発電ピークを有し、早朝や夕方の発電量が比較的高い。

まとめ|再生可能エネルギー拡大での一つの施策となり得るか

日本の発電電力量に占める再生可能エネルギーの比率は、まだ2割に過ぎない。福島第2原発事故以降は、補助金の給付もあり全国的にソーラーパネルが設置されるようになったが、積雪の面以外でも日照時間が2000時間前後と諸外国より短い傾向にある日本では、必ずしも太陽光発電が効率的でない側面もある。

しかし、縦型太陽光パネルはシンプルながら、日照時間が短く降雪のある北国でも太陽光発電の可能性を大きく広げられるアイデアだ。地域性に根ざした各種課題を発想次第で解消できる、好例と言えるだろう。


参考文献:

※1:太陽光発電の1日の発電量は?季節・地域別の発電量、シミュレーション方法も解説, EV DAYS by 東京電力エナジーパートナー(リンク

※2:LUXOR(リンク

※3:世界初、駐車場などと併用可能な垂直ソーラー発電システム「VERPA(ヴァルパ)」を開発, エア・ウォーター(リンク

※4:日照データベース閲覧システム, 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)(リンク

※5:NEDO 日照量データベースの解説書 WEB版Ver.3.0, NEDO(リンク

※6:太陽電池の発電量に及ぼす雪面反射の影響, 青木秀敏・廣田仲生(リンク

※7:日本のエネルギー(2023年版), 資源エネルギー庁(リンク


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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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