投資先とその技術から見る注目の国内CVC | 医食・機械分野のCVC編

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近年、日本の大手企業がコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を設立し、革新的なスタートアップ企業へ投資する動きが活発になっている。国内のCVCを取り上げる企画の4回目として、母体企業が医食・機械分野のCVCを紹介する。

これらのCVCは、母体企業にとっての新技術の獲得や新規事業の創出だけでなく、社会課題の解決や持続可能な未来の実現も意図に含まれたものとなる。各CVCの母体企業と目的、および投資事例を解説し、日本企業がイノベーション創出と事業拡大にどのように取り組んでいるかを紹介する。



味の素|米国VCとも協業

味の素は、2020年12月にコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)としての取り組みをスタートした。主な投資対象は、フードテックやヘルスケアなどとなっている。

ポートフォリオの一つとなっているのが、おいしい健康。クックパッドからスピンアウトしたスタートアップだ。糖尿病や高血圧などといった個人の健康課題に合わせたレシピを、アプリ上で提供する。エビデンスに基づく管理栄養士監修のレシピ開発や、AIによるレシピ・献立提案アプリなどのデジタルサービスを展開する。

また、2024年1月にはシリコンバレーにCVCの拠点を新設し、米ベンチャーキャピタル(VC)のTranslink Capitalのファンド、さらに国内スタートアップのエレファンテックに出資した。エレファンテックは既存製法に比べて二酸化炭素(CO2)排出を75%以上、水消費を95%削減できるインクジェット印刷による次世代電子回路基板を提供する。当初の食関連の投資から領域を広げていることがうかがえる。


エレファンテックが生産する電気化学センサー(エレファンテックのプレスリリースより)

小野デジタルヘルス投資|企業文化であるオープンイノベーションの加速狙う

小野デジタルヘルス投資は、小野薬品工業が2022年3月に設立したCVCだ。ヘルスケア分野のスタートアップを投資対象とし、「健康寿命の延伸と持続可能な社会の実現」を目的としている。特に、デジタル技術を活用した疾病予防や生活の質(QOL)の向上を図る企業を支援する。

小野薬品は、これまでの歴史の中で独創性を重視し、オープンイノベーションを推進してきた背景があり、このCVCもその延長線上での取り組みとしている。

投資先の一つが、スマートアパレル「e-skin」を用いたヘルスケアサービスを提供するXenoma。慶應義塾大学病院と共同開発したウェアラブル心電図検査は2022年より保険適用が始まった。

小野薬品からスピンオフした投資先もある。ビーエムジーがそれに当たり、生体吸収性縫合糸用ポリマーをはじめとした医療用素材を開発。2022年には京都大学発のスタートアップであるバイオベルデを吸収し、ライフサイエンス領域にも進出した。

海外の投資先には、AIによる画像診断アプリケーションを開発する台湾の企業、aetherAIがある。

オムロンベンチャーズ|FA・ヘルスケア・スマートシティが投資領域

オムロンベンチャーズは、オムロン株式会社が2014年に設立したCVCだ。投資領域を「Factory Automation」「Healthcare」「Smart City」の3つとしている。

投資先のサイキンソーは、体内の微生物の集合体であるマイクロバイオーム(細菌叢)に関連したスマートフォンアプリなどの事業を展開する。同じくマイクロバイオーム関連で英国のEagle Genomicsにも出資する。

Visby Medicalは、2020年に米食品医薬品局が最初に承認したPCR検査キットを開発。現在は、性感染症の検査キットもリリースしている。

Visby Medicalの性感染症検査キット(Visby Medicalプレスリリースより)

KIRIN HEALTH INNOVATION FUND|ヘルスサイエンスを起点にアグリテック分野にも投資

KIRIN HEALTH INNOVATION FUNDは、キリンホールディングスとVCのグローバル・ブレインが設立した投資事業有限責任組合(LP、LPS)である。投資領域は、ヘルスサイエンスが中心だ。

Siolta Therapeuticsは、バイオ医薬品開発を行うスタートアップで、まさにヘルスサイエンスの真ん中を行く投資先といえるだろう。Sioltaは2022年、開発したアトピー治療薬を新生児に投与する臨床実験を行ったことを発表した。

植物肉スタートアップのDAIZにも投資している。

関連記事:代替たんぱく4分野の開発・製品化の動向。人類の「危機」を救うため国内外で進む研究

一方、アグリテック分野にも投資。サグリがそれに当たり、衛星データとAI技術を活用した農業分野の課題解決に取り組む。提供する農地管理ソリューションは、効率化だけでなく農地由来の温室効果ガス(GHG)Scope 3排出量の可視化・削減を追求するもので、環境保護をも目指すものとなっている。

ソニーイノベーションファンド|グローバルかつ幅広い投資先を有する

ソニーイノベーションファンドは、ソニーグループが設立したCVCである。ソニーは電気機器の生産だけでなくコンテンツ事業や金融事業なども行うコングロマリットであるためCVCの投資領域も幅広く、またグローバルに170社以上の投資先がある。

すでにイグジットした投資先として、2021年に東京証券取引所マザーズ(現東証グロース)に上場したGreen Earth Instituteが挙げられる。発酵生産技術やバイオマスなどの開発を行い、環境関連の投資先となる。

スポーツテクノロジー企業のKITMAN LABSは、2012年にアイルランドで設立。ウェアラブルテクノロジーとデータ分析を組み合わせた、アスリート向けクラウドプラットフォームを提供する。

米国の投資先企業であるAdHawk Microsystemsは、カメラを使わず「Scanner module」と呼ばれるプロダクトで視線のスキャニングを行うなど、目・視線に関する技術開発を行うスタートアップ。メガネ型のウエアラブル端末開発での活用を狙う。

Honda Innovations|オープンイノベーションプログラムを通したスタートアップ投資

本田技研工業の研究開発組織である本田技術研究所は2014年、米シリコンバレーにCVCのHonda Innovationsを設立。Honda Innovationsはオープンイノベーションプログラムとして「Honda Xcelerator Ventures」を実施しており、投資も行う。

環境関連の投資先が特に目立つ。米国のSeurat Technologiesはクリーンエネルギーのみで稼働する3Dプリンティングソリューションを提供し、製造業のカーボンニュートラルを支援。同社にはトヨタ系のデンソーも出資している。

ドイツ企業であるINERATECは、持続可能な航空燃料(SAF)をはじめとした生産時にCO2を輩出しない燃料や化学製品を開発する。

ニューヨーク証券取引所(NYSE)に2022年、上場したSESは電気自動車のバッテリーを開発。ホンダの他、General Motors、Hyundaiと共同研究開発契約(JDA)を締結している。

まとめ

ホンダの事例で見られるように、CVCの投資先は母体の競合先も出資しているケースがある。優れた技術を持つスタートアップは必然的に関連する大企業が食指を伸ばす背景があるだろうし、欧米では社会課題解決を目指すスタートアップが特に評価される傾向にあることから、それを実現する企業であれば競合が投資していようと構わないと考える側面もあるのだろう。

今後も、当編集部では国内外のCVCに注目し取り上げていく。


参考文献:
※1:味の素㈱、コーポレートベンチャーキャピタルを新設, 味の素(リンク
※2:味の素㈱、健康課題別の献立とレシピで健康な食生活を提供する㈱おいしい健康に出資, 味の素(リンク
※3:味の素㈱、米国・シリコンバレーにコーポレートベンチャーキャピタル拠点を新設, 味の素(リンク
※4:小野デジタルヘルス投資(リンク
※5:オムロンベンチャーズ(リンク
※6:KIRIN HEALTH INNOVATION FUND(リンク
※7:Sony Innovation Fund(リンク
※8:Honda Xcelerator Ventures(リンク


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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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