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Teslaの導入で注目される「ギガキャスト」他社の動向は?

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ギガキャストは鋳造の方法の一つである。従来よりも高い圧力で鋳造を行い、大型部品を精度よく量産できる生産技術だ。Teslaがリアシャシーの生産に取り入れたことで、自動車業界を中心に注目を集めるようになった。

本稿では、自動車メーカーを中心としたギガキャストの導入動向を紹介する。


ギガキャストとは?大規模なダイカスト法

金属加工には、鍛造、鋳造、押出成型、プレス成型、削り出しなどさまざまな方法がある。

このうち鋳造とは溶融した金属を型に流し込み、冷え固めることで所望の形状を得る。古くは、奈良・東大寺の大仏作りにも用いられた。

鋳造は、一度、型を作ってしまえば以降の工数が少なく済むため、安価な大量生産が可能だ。ただし、大型になるにつれて細部の精度が落ちるという欠点がある。

この欠点を補うために改良が進められ、ダイカスト法がつくられた。ダイカスト法は鋳造の一種だが、溶融金属を単に「流し込む」のではなく、「押し込む」方法だ。しっかりと締め付けた空間に溶融金属を押し込み、圧力を加えながら冷却する。これによって冷却時の縮みが少なく、細部の精度も向上する。精度の高い金属加工ができれば切削や鍛造などのポストプロセス(後工程)が減り、コストを抑えることが可能だ。

Teslaは、工数を減らし、よりシンプルで安価なシャシー(車体下部の金属支持構造)製造を目指す中で、ダイカストに着目した。

当時、シャシー製造でTeslaが求める精度を満たすダイカスト装置は存在しなかったが、その後、Teslaの要請に応えられるより大きな締め付け圧力を持つダイカスト装置が造られる。結果として装置は非常に大きくなり、従来のダイカスト装置とは一線を画すことからギガプレスと呼ばれるようになった。

日経によれば、ギガキャストという名称は2023年6月にトヨタが使用したことで広まったという。一方、ギガキャストの装置を生産するIdraは、ギガプレスは同社CEOのRiccardo Ferrario氏による造語だとしている。

ギガキャストのメリットとデメリット

ギガキャストのメリットとデメリットを挙げると、まずメリットに関しては生産工程を簡略化でき、さまざまなコストを削減できる点がある。後述するように、Teslaはリアシャシー部分を一つの鋳造品とすることを目指す

デメリットは、締め付け力が高く大規模な装置が必要となるため、導入コストが上がってしまう点だ。

その他のメリット、デメリットは上の表にまとめた。

Teslaの動向|導入から現在まで

Teslaがギガプレスを導入した経緯についてより詳細に見ていく。

2019年6月、TeslaのElon Musk CEOは第2四半期の財務状況について語り、生産効率向上を実現するための手段として、リアシャシーに鋳造技術を導入する計画を明かした。当時のMusk氏のコメントは以下の通り。

「現在の製造工程において、モデル3のリアフレームでは70個のアルミニウムとスチールの部品を組み立てる必要がある。Teslaは、これらの部品をすべて小型鋳造機で鋳造した部品に交換し、手始めに部品数を4個に減らす予定だ。Teslaはすでに、これを1つの部品に統合できる大型の鋳造機を検討している」

当時、Teslaの自動車部門社長であったJérôme Guillen氏も、シンプルな製造プロセスを追求するにあたり、巨大な製造装置を取り入れることに言及している。

2020年9月にはTeslaのフリーモント工場で実際に導入済みのギガキャスト装置が確認された。この装置はイタリアの鋳造機メーカーであるIdraが製造元であることが知られている。当該装置の締め付け力は 5500~6100トン、装置重量は430トン、大きさは20.4 × 7.4 × 6.3メートルだ。

Idraではさらに進んで、8000トンおよび9000トンの締め付け力を有するギガキャスト装置を生産している。

ギガキャスト装置は現在、フリーモント、ベルリン、テキサスなどのEV組み立て工場で稼働している。

ただし、鋳造へ移行する計画の全てが予定通りに進んでいるわけではないようだ。2024年5月、Reutersはギガキャストによるリアシャシー製造計画の後退を報じた。当分の間は、小型鋳造機で製造された3つの部品を接合する現行の方法を維持するとのことだ。中国製EVの台頭などによって競争が激化し、目先の支出を減らそうとしているのではないかと考えられている。

その他企業の動向|自動車と通信での活用

Teslaの計画を受け、大手自動車メーカー各社も一部鋳造への移行を計画している。

トヨタ

トヨタ自動車は2023年6月、新技術を紹介する Toyota Technical Workshopにて、EVシャシーにギガキャストを導入する計画を発表した。2026年に販売開始する新型EVでギガキャストを採用することを目指す。

トヨタのプレゼンテーション



Volvo

2023年11月、Idra社は締め付け力 9000t規模のギガキャスト装置をスロバキアにあるVolvoのEV工場に納品する契約を締結したと発表した。

Glovitech

ギガキャストはEVシャーシ以外にも、5G携帯基地局用のファラデーケージ生産への活用も見込まれる。

韓国で通信向けに金属加工を行うGlovitechは、中国の鋳造機メーカーである LK Technologyから 6000トン規模のギガキャスト装置を購入した。Glovitechのベトナム工場に導入されている。2021年3月には当該ギガキャスト装置を用いたファラデーケージの生産に成功している。

無線基地局用筐体は 4Gから 5Gへの移行により重量や放熱性の面でより高い性能が求められ、構造が複雑化した。ギガキャストはこうした複雑な形状を維持しつつ、よりコストを抑える選択肢として期待が寄せられる。

コスト抑制の他に期待できる効果

ギガキャストは生産コストの抑制につながる生産方法だが、環境負荷の低減も期待できる。消費する鋼材の量が削減できる、部品の輸送が減らせる、など二酸化炭素(CO2)排出を抑えられる要因があるためだ。

とりわけ、EVはリチウムイオン電池を作るため製造時のCO2排出量はガソリン車より高い。このガソリン車との排出量の差を狭められる可能性を秘めた生産技術が、ギガキャストとなる。




参考文献:
※1:大仏さまについて, 東大寺KID’S(リンク
※2:EV製造で注目の「ギガキャスト」、大物部品を一発成形も利点は条件次第, 近岡裕, 日経クロステック(リンク
※3:Tesla Refocuses On Financial Stability & Manufacturing Throughput In Q2, Kyle Field, CleanTechnica(リンク
※4:Our Interview With Tesla President Jerome Guillen, Part Deux, Zachary Shahan, CleanTechnica(リンク
※5:Tesla Model Y single-piece rear casts spotted in Fremont factory, Simon Alvarez, TESLARATI(リンク
※6:GIGA PRESSのパンフレット, Idra(リンク
※7:NEO 5500 – NEO 6100 – NEO 8000 – NEO 9000t, Idra(リンク
※8:Tesla Gigafactory Texas gets its second Giga Press machine, TESLARATI(リンク
※9:テスラの「ギガキャスト」計画後退、事業環境の逆風反映=関係者, Giulio Piovaccari 他, Reuters(リンク
※10:トヨタ、クルマの未来を変える新技術を公開, トヨタ自動車(リンク
※11:Toyota to transform car assembly with ‘gigacasting’ in EV shift , NIKKEI Asia(リンク
※12:Two gigapress 9,000 tons at VOLVO CARS , Idra(リンク
※13:LK 6000 Plus die casting cell for Vietnam’s 5G ultra large housing production, Foundry-Planet.com(リンク



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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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