浮体式洋上風力発電の現状は?カーボンニュートラルのため多くの地域・海域で活用可能な手法
2050年のカーボンニュートラル達成に向けてクリーンなエネルギー調達方法が求められている。最もクリーンなのは自然エネルギーを利用したものであるが、その中でも近年注目されているのが風力発電、さらにいうと「浮体式洋上風力発電」だ。
本稿では浮体式洋上風力発電の概要や特長、メーカーを紹介する。
洋上風力発電の仕組み
風力発電機は大まかに分けてプロペラ、増速機、発電機で構成される。プロペラには可変ピッチ機構が付いており、羽根(ブレード)の角度や風車全体の向きを自動的に変えることで、その時々において最適な条件で発電できるよう設計されている。
なお、以上は多くの人が風力発電と聞いてイメージする、プロペラ型かつ水平軸型の発電機の構造だ。風力発電機の構造には他にも、パドル型やサボニウス型などが存在する。
そして洋上風力発電では、洋上の強力な風力によりプロペラが回り、増速機で発電に必要な速度まで増速された後、発電機により発電される。風車があるのは洋上のため、敷設された海底ケーブルを利用して送電され、変電所などに送られる仕組みだ。
洋上風力発電の種類|着床式のタイプも紹介
洋上風力発電には、設置方法の違いにより着床式と浮体式がある。両者の大きな違いは発電装置の基礎を海底に打ち込むか、係留索でで海底と係留し位置は固定しつつ装置などの構造物は海に浮いた状態で運用するかである。
着床式
本題の浮体式の前に、着床式についても取り上げたい。3つの方式を紹介する。
モノパイル型
モノパイル型は、海底に大口径の鋼管(パイル)を直接打ち込んで一連の装置を支える最もシンプルな着床式洋上風力発電の基礎形式である。
水深30m程度までの比較的浅い海域に適しており、施工が容易で工期も短いという特長がある。しかし、硬い岩盤には不向きで、大型化すると打設に特殊な船舶が必要になるため、コストが上昇するという課題がある。
重力型
重力型は、コンクリート製の大型基礎構造物を自重で海底に設置する形式である。
水深30m程度までの浅い海域に適しており、打設作業が不要で、騒音が少ないのが特長である。また、撤去が比較的容易である。一方で、大量のコンクリートが必要で輸送・設置に大型の作業船が必要となり、軟弱地盤には不向きという課題がある。
ジャケット型
ジャケット型は、鋼管トラス構造の基礎を海底に固定する着床式洋上風力発電の形式である。
水深30m〜60m程度までの比較的深い海域に対応でき、モノパイル型と比べて構造的な安定性が高いという特長がある。また、急峻な海底地形などの不均一な海底地盤にも対応できる。
一方で、複雑な構造であるため製作・施工コストが高いという課題がある。
浮体式
浮体式は4つの方式を取り上げる。
バージ型
バージ型は、箱型の浮体構造物(バージ、ポンツーン)に風車を搭載する浮体式洋上風力発電の形式である。
特長は、浮力が大きく浅い海域でも設置可能で、施工や維持管理が比較的容易という点だ。また、造船所での大量生産に適している。一方で、波の影響を受けやすく動揺が大きいため、発電効率の低下や構造への負荷増大が課題である。
50m程度の水深に適している。
TLP(Tension Leg Platform)型
TLP型は、浮力の大きい浮体に強固な係留索を付け、海底に緊張係留する形式である。係留索に強い張力をかけることで浮体の揺動を抑制し、安定性を得るものだ。
水深100m以上の深い海域に適している。
揺動が小さく発電効率が高いという利点のある一方、他の浮体式に比べて係留システムが複雑で設置コストが高額という課題がある。
セミサブ型
セミサブ(セミサブマージナル)型は、複数の浮体を水面下に配置し、それらを柱で連結した構造に風車を搭載する形式である。浮体を半潜水、もしくは、完全に沈めるため、波の影響を受けにくく高い安定性と優れた動揺性能を有する。
水深50m以上の海域に適している。
既存の石油掘削リグの技術を活用できる利点があるが、構造が複雑で製造コストが高いという課題がある。
スパー型
スパー型は、長い円筒形の浮体に風車を搭載する浮体式洋上風力発電の形式である。浮体の重心を低くすることで高い安定性を確保し、波の影響を受けにくいのが特長だ。
適しているのは水深100m以上の深い海域である。
構造がシンプルで製造コストを抑えられる利点があるが、設置時に重機船が必要で、浅い海域では運用が困難となっている。
着床式と比較した浮体式洋上風力発電のアドバンテージ
浮体式洋上風力発電の、着床式と比べた時のアドバンテージを紹介する。
設置可能な水深の制約がない
浮体式は、着床式が水深50m程度までに設置場所が制限されるのに対し、水深100m以上の海域でも設置が可能である。これにより、設置候補地の選択肢が大幅に広がり、発電所の適地選定の自由度が高まる。
特に遠浅の海域が少ない日本において重要な点といえよう。
海底地盤の影響を受けにくい
着床式では海底地盤の詳細な地質調査や、場合によっては地盤改良工事が必要であるが、浮体式は係留システムによる固定のみで済むため海底地盤の状況による制約を受けにくい。
これにより、地質調査のコストや工期を削減でき、建設の効率化が図れる。
より安定した風力を活用できる
浮体式は着床式より沖合での設置が可能なため、より強く安定した風況を活用できる。沖合では風が強く、風向も安定しており、陸地の地形による乱流の影響も少ないため、発電効率が向上する。
また、沖合に設置することで、騒音や景観への影響も軽減できる。
着床式と比較した浮体式洋上風力発電のディスアドバンテージ
一方、浮体式洋上風力発電にもディスアドバンテージはある。
海底ケーブルや洋上変電所など送電システムが複雑
浮体構造物は常に動いているため、海底ケーブルには高い柔軟性と耐久性が必要だ。また、浮体と海底ケーブルの接続部分にはライザーケーブルと呼ばれる特殊な海底ケーブルが必要となるほか、風力発電機が陸から概ね30km以上離れている場合は洋上変電所も必要になる。
このようにシステムが複雑であるため故障リスクも高く、修理コストの増加につながる傾向がある。
メンテナンスの難易度が高い
浮体式は常に波や風の影響で動揺しているため、作業員の安全確保が困難である。また、係留システムの定期点検や補修作業が必要となり、着床式と比べて保守管理の工数が増加する。
保守や修理の際には専用の作業船(CTV=Crew Transfer Vessle)で作業員を現地に送ることが必要だ。
気象条件による発電の制約が大きい
強風や高波の際は浮体構造物が大きく揺動するため、発電機器への負荷が増加し、発電効率低下の可能性がある。また、台風などの極端な気象条件下では、設備の安全性を確保するため、運転を停止する必要がある。
これらの制約は発電量に大きく影響する。
浮体式洋上風力発電開発を行うスタートアップ|欧州3社
ここで浮体式洋上風力発電において特長のあるメーカーを紹介する。浮体式は着床式に比べて歴史が浅く、浮体部分の技術開発が盛んに行われている。
Stiesdal
Stiesdalは、デンマークの風力発電技術者であり、Siemens WindpowerのCTOを務めたHenrik Stiesdal氏が設立したスタートアップである。
同社は、設備を設置する側にとっての負担軽減を図る浮体式洋上風力発電の基礎構造「TetraSpar」を開発。TetraSparはキール(浮力体)、タワー、係留システムをモジュール化し、陸上での組立を可能とし、製造コストの大幅な削減を実現した。
2021年にはノルウェーにある海洋エネルギーテストセンター(Marine Energy Test Centre)において、Shell、RWE、東京電力リニューアブルパワーが参画のもと、3.6メガワット風力タービンを搭載したTetraSparの実証実験を開始。沿岸から10km、水深200mに発電装置を設置した。
X1 Wind
X1 Windは、スペインのバルセロナに拠点を置く浮体式洋上風力発電のスタートアップである。
同社が開発したPivotBuoyは、風向きに合わせて自動的に向きを変えるウェザーベーニング(weathervaneは風向計の意)機能を備え、シンプルな係留システムとコンパクトな設計により設置やメンテナンス時の省力化を実現している。
2021年には同国カナリア諸島のPLOCANテストサイトにおいて、225キロワットタービンを搭載したX30プロトタイプの実証を実施。同社のCEO兼共同創業者であるAlex Raventos氏は、設置コストの削減や海底部への影響を軽減できると訴求した。
Hexicon
Hexiconは、スウェーデンのストックホルムに本社を置く浮体式洋上風力発電開発のスタートアップ。
同社が開発したTwinWindの特長は、三角形の浮体プラットフォームに2基の風車を搭載する独特なデザインである。
TwinWindは、風向きに合わせて自動的に向きを変えるウェザーベーニング機能を備え、設置面積あたりの発電量を最大化できる設計となっている。また、2基の風車を1つの浮体で支えることで、効率的なエネルギー生産も実現している。
2022年には韓国南西部の沖合において、TwinWindの実証実験となるツインハブ・プロジェクトを開始した。
まとめ|グローバルに求められる浮体式洋上風力発電
着床式洋上風力発電が適しているのは、水深約50m以下の海域に限られる。欧州北海沿岸や米国東海岸は水深が浅く着床式に適しているが、これは世界的に見れば例外的だ。
一方、日本近海の大半や米国西海岸、地中海沿岸、アジア太平洋地域の多くは、水深100mを超える海域が大部分を占める。このため、世界における洋上風力発電の潜在的な適地の多くは、浮体式の方が向いている。
2050年のカーボンニュートラル達成目標や、生成AIの発展により不足すると予測される電力を賄うためにも、浮体式洋上風力発電がますます期待されそうだ。
参考文献:
※1:風力発電のしくみ, 中部電力(リンク)
※2:洋上風力発電(2), 独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構(リンク)
※3:2.着床式洋上風力発電の基本的事項, 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(リンク)
※4:テトラ・スパー型浮体式洋上風力発電実証プロジェクトへの参画, 東京電力リニューアブルパワー(リンク)
※5:浮体式洋上風力発電技術ガイドブック, 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 (リンク)
※6:次世代の洋上風力発電、バージ型浮体が完成、NEDOと日立造船が協力, 新電力ネット(リンク)
※7:用語解説 第118回テーマ:洋上風力発電に適用される送電ケーブル, 一般社団法人電気学会(リンク)
※8:洋上風力発電アクセス船(CTV)事業, 東京汽船株式会社(リンク)
※9:Stiesdal(リンク)
※10:「テトラスパー型」浮体式洋上風力、東電RPが実証に参画, メガソーラービジネス(リンク)
※11:X1 WIND(リンク)
※12:X1 Wind successfully installs floating wind platform in Spain, X1 WIND(リンク)
※13:Hexicon(リンク)
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