量子コンピューター開発のAlice & BobがシリーズBで162億円を調達。2030年までの実用化が目標

フランスのスタートアップ、Alice & Bobは2025年1月28日、シリーズB資金調達ラウンドで€100m(約162億円)の確保を発表した。
Alice & Bobは2020年に創業した、量子コンピューターを開発する企業。社名の「アリスとボブ」は、IT関連企業が暗号通信などを説明する際に使われるイラストで、頻繁に登場する架空の人物名から採られた。
量子コンピューターの課題を解決する「猫」とは
量子力学を象徴的に表す言葉、考え方として「シュレーディンガーの猫」がある。オーストリアの理論物理学者であるErwin Schrödinger(1887〜1961)が「思考実験」として述べたものだ。シュレーディンガーの猫は、以下のような説明となる。
箱の中に、猫、放射性物質、ガイガーカウンター、毒ガス装置を入れる。箱には、放射性物質が崩壊するとガイガーカウンターが反応し、毒ガスが発生する仕掛けをしておく。時間が経って箱を開ければ、毒ガスが発生して猫は死んでいるかもしれないし、何も起こらず生きているかもしれない、というものだ。Schrödingerが説明したいのは、箱を開けるまで結果はわからない、すなわち、量子というものは観測するまで状態がわからない、ということだとされる。
と同時に、シュレーディンガーの猫はもう一つ、「量子重ね合わせ」を表現する考え方でもある。量子重ね合わせを従来型のコンピューターと量子コンピューターを使って説明すると、従来型のコンピューターは一つのビット内に「0」か「1」のいずれかしか入らないのに対し、量子ビットは「0」と「1」が「重ね合った」状態で入る。こうした特徴により、量子コンピューターは従来のコンピューターとは異なる計算能力を持つわけだ。箱の中にいる猫の生死も、量子重ね合わせを象徴的に表しているといえるだろう。
なお、本稿の冒頭に掲載したイラストも、シュレーディンガーの猫や量子重ね合わせを表すものだ。
しかし、各国で開発が進む量子コンピューターで課題となっているのが、量子重ね合わせの状態(コヒーレンス時間という)を長時間、維持できない点。低コヒーレンスであると、計算でエラーが多発してしまう。
コヒーレンス時間の課題を、Alice & Bobは「キャットキュービッツ(猫量子ビット)」というアイデアで乗り越えようとしている。
キャットキュービッツは、光子パリティによって量子コンピューターの計算エラーを削減しようとする考え方。光子パリティとは、光子を鏡に映したとき元の状態と同じ動きをするか逆の動きをするかで、偶と奇に分ける。この分け方を取り入れることにより、位相反転エラーは若干の増加があるものの量子ビット反転エラーは大幅に減少するといい、全体的なエラーの削減につなげる。
Alice & Bobは、こうしたアイデアにより開発する量子コンピューターの「汎用」化を目指す。Théau Peronnin 共同創業者兼CEOは、下記の動画でキャットキュービッツによるコンピューターを「新薬や先進材料の設計を可能にし、さらにはあらゆる最適化を図る」と語っている。よって、学術・科学的な分野のみならず、社会、経済といった広範な量子コンピューターの活用を目論んでいると受け止められる。
Alice & Bobの企業紹介動画
2024年12月には、2030年までに初期の産業用途で利用可能な量子コンピューターの提供をすることを含むロードマップを発表した。
AXAのCVCが主導
シリーズBは保険大手、AXAのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)であるAXA Venture Partnersなどが主導。他、欧州イノベーション評議会(EIC)やシリーズAに参加したベンチャーキャピタル(VC)のすべてが応じた。
資金の使途は、前出のロードマップに則り2030年までの量子コンピューター提供を実現するための開発に利用する。
前出のPeronnin 氏は調達の発表において、「キャットキュービットは、量子コンピュータのスケーリングを現実的にする点でユニークなものとなっている。従来のアプローチでは数百万のキュービットが必要だったが、われわれは数千のキュービットしか必要としない」と、技術的強みをアピールした。
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