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【展示会レポート】Boston DynamicsのCSO、Marc Theermann氏が来日。現在から未来にかけてのロボティクスで生まれる「3つの時代」

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ロボティクス分野の米スタートアップであるBoston DynamicsのMarc Theermann最高戦略責任者(CSO)が2025年1月、来日。同月23日、東京ビッグサイトで開かれていた展示会「Factory Innovation Week 2025」(RX Japan主催)での講演に登壇した。

参考記事:現代自動車グループが4足歩行ロボットのボストンダイナミクスを買収

本稿ではその模様と、展示会で編集部が注目したポイントを紹介する。

「ロボットに指示をすればSMSやSAPなどで通知が来る」

カンファレンス開始前の会場(編集部撮影)

Theermann氏は、Googleなどを経て2021年にBoston DynamicsのCSOに就任。2023年からは、エアモビリティのJetosonでもBoston Dynamicsと並行して取締役顧問を務めている。

開始時刻になると、会場で流れたのが映画『Star Wars』のサウンドトラック「The Throne Room - End Title」。少し間を空けて、Theermann氏がBoston Dynamicsの四足歩行ロボットであるSpotとともに、登場した。

カンファレンスが始まる前もSpotを間近に見られる機会が設けられた(編集部撮影)

「こんにちは。皆さんの多くと同様、私もStar Warsのファンなので、一緒に楽しみたいと思ったための選曲だ。そして、今日のプレゼンテーションのテーマは、『実際のC-3PO』についてとなる」とあいさつ。続けて、次のように会社概要からのプレゼンテーションに入った。

「Boston Dynamicsは米東海岸に拠点を置く、創業約30年の企業。約800人の従業員がおり、創業以来、ロボティクスに取り組んできた」

次に、現在から未来にかけてのロボティクスにおける「時代区分」を解説。Theermann氏によれば、以下の3つのフェーズに分けられるという。

  • 現在:Industrial Era=ロボットを工場や倉庫などで産業利用する時代
  • 2025年以降:Service Era=ロボットを人などに対するサービスで利用する時代
  • 2030年以降:Home Era=ロボットを自宅に持ち帰って利用する時代

2025年を迎えた今、2つ目までは読者も実感できるのではないだろうか。工場で作業するロボットは20世紀から存在し、日本国内では人材確保の難しさから飲食店でサービスを行うロボットが一般的となった。

そして、Theermann氏によるところの向こう5〜10年で起こるHome Eraでのプロダクトとして紹介されたのが、ヒューマノイド「Atlas」だ。画面に映されたAtlasの姿は、かつて本田技研工業が開発したAsimoを彷彿とさせると感じた。

しかし、Atlasの動きは2000年のAsimoとは大きく異なる。まずは、会場で流されたものと同じ動画を、ご覧いただきたい。

Atlas Gets a Grip

走る際は両足が地面に着いていないタイミングがあり、ジャンプは体操選手のようなひねりを入れている。さらに注目しなければならない点を、Theermann氏は次のように説明する。

「このビデオでAtlasは、2つの物体を認識した。1つは木の板で、Atlasはこれをどう使えばよいか理解していた。もう1つ、バッグも(冒頭に登場した作業者のバッグを忘れたという言葉を聞き)どう扱えばよいかわかっていた」

しかし、このAtlasは「旧式」だ。2024年、Boston Dynamicsは新型となる「Electric Atlas」を発表した。こちらも、以下の動画が会場で流されている。

All New Atlas

ヒューマノイド、すなわち人型のロボットであるが、関節の動きは実際の人間よりはるかに自由度が高い。

「なぜ、こうした動きができるのか? 新型では、ほぼすべてと言ってよいほど、ケーブルを排除した。ケーブルが、自律移動ロボットにおいて故障しやすい部分であるからだ」

Theermann氏はこの言葉に続けて、行動のクローン化や強化学習も大切なポイントになると、語る。強化学習という点では、以下の記事も参考にしていただきたい。

参考記事:2024年時点でのヒューマノイド開発の最新技術トレンドと産業応用

結果、Atlasは以下の動画のように、モノを選び、掴んで運び、適切な場所に収める、といった動作が可能になる。ヒューマノイドを含むロボットによって、労働力不足を補うのはBoston Dynamicsのパーパスでもある。

Atlas Goes Hands On

「例えば、食品工場にネズミがいる状況は、絶対にあってはならない。そこでOrbit(軌道の意)というソフトウェアと連携させた施設内を見回るロボットに、『あなたは今日、ネズミを見ましたか?』と聞けば、『はい、プラントBで見ました』という回答がもらえるようになる。

さらに、『今後、ネズミを見かけたらすぐに知らせてください』と指示すれば、次からは携帯電話のSMSやIBM Maximo、SAPなどを使って通知が来るようにできる。

このように事例を見せると、『では、Atlasはいつ買えるようになるのか?』という質問をよく頂戴する。数年先というのがわれわれの答えだが、お客様には『まずSpotから始めてはいかがでしょうか』と提案している。Spotは、すでに商用化フェーズとなっているためだ」

こう語るTheermann氏は続いて、Spot、Atlasに続くBoston Dynamicsのもう1つのロボット、Stretchを紹介した。

「Stretchは重量が1トンの非常に大きなヒューマノイドでないロボットだ。物流業界のために開発するもので、四方にLiDARスキャナーを装備。物流環境内を自律的に動ける。また、真空にできるグリッパーが付いており、荷物を拾える」

会場内では、以下の中でStretchが作業する部分だけを切り抜いた動画が流された。

Introducing Multipick for Stretch

なお、先に説明があったIndustrial EraのロボットとStretchとで大きく異なるのは、Stretchは自律的な動きができるため、冗長性が高い点だ。従来、工場で使われていたアームのあるロボットは原則的に固定されている。

Theermann氏による講演の要旨はここまでだが、展示会場を見ると、ファナックやUniversal RobotsがStretchと同様、吸盤タイプのハンドを取り付けたロボットを展示していた。物流分野では、この形式が一般的になっていると受け止められた。

Universal Robotsのロボット(編集部撮影)

会場ではハッカーのコンペティションも

Factory Innovation Week 2025と同時期には、エレクトロニクス関連の展示会である「第39回 ネプコン ジャパン」や自動車関連の先端技術展示会である「第17回 オートモーティブ ワールド」などといった展示会が、同じ主催者によって開かれていた。

すべての会場を回った中で興味深く感じたのが、コンペティション「Pwn2Own Automotive」だ。主催は、Zero Day Initiative(トレンドマイクロとその子会社であるVicOneが、共同で設ける脆弱性発見コミュニティ)。そして、Teslaがスポンサーと競技の題材になるプロダクトの提供をしていた。

編集部撮影

では、何のコンペティションなのかというと、コネクテッドカーの脆弱性を発見するというもの。会場には世界から集められた3チームのハッカーたちがおり、この中で編集部が競技の最初から最後まで見たのが、ハンガリーのチームによるものだった。

このハンガリーのチームは、競技開始から10秒も経たないうちに脆弱性を発見。競技後にはバックヤードで本当に発見ができているか確認が行われるというが、間違いなければ賞金が支払われる。

Pwn2Own Automotiveに参戦したハンガリーのチーム(編集部撮影)

次世代の自動車について、技術面ではLiDARやOSなどが注目されがちだ。しかし、セキュリティーもさまざまな企業が取り扱っている端末やネットワークと同等以上の対策が必要になる。

少なくとも日本政府の方針(自動運転に係る制度整備大綱)では、ハッキングによる事故は政府保証事業が検討されているものの、システムの欠陥による事故の場合、損害保険会社はメーカーに求償できるとしているためだ。

ハッキング起因の事故だとしてもセキュリティー面でメーカー側の瑕疵があれば、少なくとも社会的な責任追及は起こるだろう。Pwn2Ownはクールさを感じる催しであったが、こうした試みがディープテックの安全面を支えると感じた。




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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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