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投資先とその技術から見る注目の国内CVC|物流・鉄道・印刷のCVC編

INDEX目次

国内のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を取り上げる企画の3回目は、物流、鉄道、印刷を事業領域としている企業をピックアップ。具体的な投資先とともに、スタートアップ側が有する技術も紹介する。

MOL PLUS|本業の海運関連の他、ロボット開発企業にも投資

海運大手の商船三井が2021年に設立したMOL PLUSは、投資枠を40億円とするCVCだ。投資対象は、国内外のアーリー、ミドルステージのスタートアップとしており、ポートフォリオには18社が加えられている。

そのうち、米アラバマ州に拠点を置くFleetzeroは、船舶用のバッテリーを開発し、海運におけるカーボンニュートラルを目指す。

同じく船舶に関するプロダクトを開発するのが、イスラエル発のスタートアップ、Captain’s Eye。船舶の運行をマシンビジョン解析(従来、人間の目視で行っていた作業を自動化)することにより、安全性の確保、省力・省コスト化を図る企業だ。

国内の投資先には工場や倉庫の自動化を実現するロボット開発を行うRapyuta Roboticsなどがある。

JR西日本イノベーションズ|「500万回のビジネスチャンス」を活用

西日本旅客鉄道(JR西日本)のCVCであるJR西日本イノベーションズは、同社路線の利用者が1日あたり500万人であることから、これを「約500万回のビジネスチャンス」と捉え、グループを挙げて投資先と協業していく姿勢を示す。

投資先の一つであるセレンディクスは3Dプリンター住宅を販売し、キャッチコピーは「車を買う値段で、家を買う。」。慶應義塾大学SFC研究所 環デザイン&デジタルマニュファクチャリング共創ラボによる設計で、すでに販売も始まっている。

3Dプリンターで造られた住宅「Serendix10」(セレンディクスのプレスリリースより)

医療分野の投資先であるカノンキュアは、肝硬変の治療法開発をミッションにする。再生医療と創薬という二つのアプローチから、その実現を目指す。

2社ともJR西日本の営業エリア内のスタートアップであるが、それ以外の地域や海外の投資先も存在する。

JR東日本ベンチャーズ|インキュベーションセンターも開設

JR西日本と同様に、東日本旅客鉄道(JR東日本)もCVCを有する。それがJR東日本スタートアップであり、投資枠は50億円。東京の高輪ゲートウェイ駅近くには、投資先や同社のプログラムに採択された企業が利用できるインキュベーションセンター「STARTUP STATION」を設ける。

新素材を開発する企業として挙げられるのが、TBMだ。石灰石を原料とする「LIMEX」という素材をつくり、プラスチックの代替を目指す。また、LIMEXの次世代品は、二酸化炭素(CO2)回収を生産プロセスに組み込もうとしている。

LIMEXを利用して作られた吉村化成製の食器容器「RidU」(TBMプレスリリースより)

一方、東京大学発のスタートアップであるソナスは、新方式のマルチホップ無線通信を開発。従来型のバケツリレー方式ではなく、複数の通信経路に同時送信し、より安定、高速化した通信環境を提供する。

この他、落合陽一氏が代表を務めることで知られデジタルで社会課題解決を図るスタートアップ、ピクシーダストテクノロジーズにも出資している。

TOPPANホールディングス|先進的な医療分野の投資先も

印刷大手のTOPPANホールディングスは、社内にCVC機能を有する。

このうち、ispaceは日、米、ルクセンブルクに拠点を持つ宇宙開発企業。まず着陸船の月面へのリーチを目指し、次いで月面ローバーでの探査をもくろむ。最終的には、月を人間の生活圏にすることが目標だ。

ispaceの着陸船イメージ図(ispaceプレスリリースより)

医療スタートアップのジャパン・メディカル・カンパニーは複数の事業を展開。その一つである矯正ヘルメット事業は、乳児の頭部が歪む「頭蓋変形」を、3Dプリンターで製作したヘルメットで治療するものとなっている。

同じく医療と近い分野の投資先では、京都のスタートアップ、マイオリッジもある。細胞培養を得意とし、プロダクトにはiPS細胞由来の心筋細胞などを販売している。

NXグローバルイノベーション|SBIなど既存VCと協業

日本通運などを傘下に置くNIPPON EXPRESSホールディングスは、2022年に投資事業有限責任組合(LP)としてNXグローバルイノベーションを設立。ベンチャーキャピタル(VC)のSBIインベストなどといったパートナーとともに投資活動を進めている。

投資先の一つであるインスタリムは、3Dプリンター義足により義足を作る。ロシアとの戦争状態が続くウクライナでの人道支援にも同社の義足が活用されている。

KINSは、マイクロバイオーム(常在細菌)を活用して人や動物の健康改善につなげることを目指すスタートアップ。菌関連のプロダクト開発を進める一方、シンガポールに人間向けのクリニック、東京都内に動物病院を開設している。

KINSは菌ケアドリンク「KINS BIO DRINK」を2024年2月に発売した(KINSプレスリリースより)

まとめ

インフラなど比較的業績が安定しやすい企業でも、CVCを立ち上げ、新たな領域に進出している。伝統ある企業だからこそ、スタートアップにとっても新たな知見が得られることもあるだろう。

今後も、CVCについて取り上げていく。


※1:MOL PLUS(リンク
※2:JR西日本イノベーションズ(リンク
※3:JR東日本ベンチャーズ(リンク
※4:TOPPAN×VENTURES, TOPPAN(リンク
※5:NXグローバルイノベーション(リンク



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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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