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海外のCVCはどのようなディープテックに投資しているのか|エレクトロニクス・ライフサイエンス分野のCVC編

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2024年6〜8月にかけて、日本国内のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を4回に分けて取り上げてきた。

参考記事:投資先とその技術から見る注目の国内CVC|金融・商社・不動産・ITのCVC編
参考記事:投資先とその技術から見る注目の国内CVC|建設・エンジニアリング・材料などのCVC編
参考記事:投資先とその技術から見る注目の国内CVC|物流・鉄道・印刷のCVC編
参考記事:投資先とその技術から見る注目の国内CVC | 医食・機械分野のCVC編

海外のCVCについても見ていきたい。全8回に分けて紹介していく予定。今回、取り上げるのはエレクトロニクスやライフサイエンス分野の事業会社を母体とするCVCだ。

Samsung Venture Investment|積極的な投資を展開するSamsungのCVCの一角

エレクトロニクスを中心とした韓国のコングロマリットであるSamsungは、Samsung Venture InvestmentというCVCを有する。1999年設立と比較的長い歴史のあるCVCだ。

Limited Partners(LP)の形式で投資を行っており、これまで64回のLPを組成。投資領域は「半導体、通信、ソフトウェア、インターネット、バイオエンジニアリング、医療など」としている。これまでの投資総額は₩3t(約3255億円)を超える。

ポートフォリオを見ると、直近の投資先に米スタートアップのVolumezがある。2024年7月のシリーズA資金調達ラウンドにSamsung Venture Investmentが応じた。端的に言えばオンラインストレージを提供する企業だが、従来と異なるのはオープンソースのKubernetes向けにIOPSが1.5m(IOPSは1秒あたりの処理数で、一般的にHDDで200〜300、SSDで10k〜100k)、300μ秒という低レイテンシーを実現している。

同じく米国の投資先に、アルカリ水分解によってグリーン水素をつくるプロダクトを開発するVerdagyがある。

Verdagyのパイロットプラント(Verdagyプレスリリースより)

なお、下記の記事の通り、SamsungはSamsung Venture Investment以外にも2つのCVCを有する。

参考記事:CVCを活用し、積極的なオープンイノベーションを推進するSamsung

Dell Technologies Capital|シリコン分野ではSiLC、SiMa.aiに出資

デジタルデバイスを製造する米デルは、Dell Technologies CapitalというCVCを2012年に設立。これまでの投資総額は$1.6b(約2316億円)、投資先の9社がIPOした。

ICチップ型LiDARを開発するSiLC Technologiesには、2019年にシード投資。SiLCの投資家には、日本のヤマトホールディングスのCVC部門もある。

また、「MLSoC」と位置付けるチップを開発するSiMa.aiにも2020年にシード投資している。MLSoCの「ML」は機械学習(Machine Learning)、「SoC」はシステムオン(ア)チップのことで、ロボットや自動運転など機械学習を活用するデバイス向けチップ開発に特化したスタートアップだ。

SiMa.aiの企業紹介動画

LG Technology Ventures|CVCの拠点はシリコンバレーに設置

韓国のエレクトロニクス業界でSamsungと双璧をなすLGもCVCを設立している。2018年に立ち上がったLG Technology Venturesがそれで、米シリコンバレーに拠点を置く。

投資先のSouth 8は、リチウムイオン電池の液体電解質を代替するガス「LiGas」を開発。リチウムイオン電池の大きな欠点である発熱・発火リスクを低減し、充電速度を向上させるものだ。

Venti Technologiesは、トレーラーなど物流や工場の現場で使われる車両を自動運転、統合運用するソリューションを開発する投資先だ。40フィートほどの車両を1インチ(約2センチメートル)の誤差の範囲で動かせる。

イスラエルの投資先であるTripleWは、食品廃棄物から乳酸とバイオプラスチックを再生産するスタートアップだ。

Next47|母体のSiemens誕生年にちなみ「次なる創業」を目指すCVC

Next47はドイツのSiemensのCVC。オフィシャルサイトはSiemensのロゴが目立たず、独立系ベンチャーキャピタル(VC)のような印象も受ける。しかし、社名はSiemensが創業した1847年にちなみ、原点回帰の意味を込めたものだ。

投資先の一つに、ロボティクス分野のスタートアップであるGecko Roboticsがある。Geckoのウェブサイトにアクセスすると、衛星写真が映し出され日本の横須賀に停泊する米海軍の艦船にクローズアップ。続いて、甲板上を検査するGeckoのロボットの映像に切り替わる。甲板だけでなく垂直に近い角度の船側の検査もできるため、防衛分野だけでなくガスタンクなどの産業分野でも活用できるロボットだ。

Sila Nanotechnologiesはリチウムイオン電池を生産する投資先だが、従来品の負極に使われていたグラファイトをナノ複合シリコンへ置き換えることを目指す。同社のシリコンであれば、生産時の二酸化炭素(CO2)排出がグラファイトと比べ1キロワット/時あたり5割以上削減できるという。

なお、Next47は2021年にニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場したAeva Technologiesにも出資していた。4D LiDARを開発する企業だ。

4D LiDARセンサー「Aeva Atlas」の紹介動画

Haier Capital|主に中国のスタートアップが投資対象

どういうわけか中国企業を母体とするCVCは、オフィシャルサイトを持っていない場合が多く見られる。こうした中で詳細な投資活動を明らかにしている中国のCVCが、Haier傘下のHaier Capitalだ。2010年の設立以来、130件以上の投資を行ってきた。

目を引く投資先として、半導体業界で大きなプレゼンスを示すArmの中国法人が挙げられる。

他、「中国のシリコンバレー」とも呼ばれる深センに拠点を置くDr.Brainは、画像診断プラットフォームを開発するスタートアップ。診断部位は脳に特化しており、アルツハイマー病や白質ジストロフィーなどに対応したプロダクトを提供する。

ポートフォリオを読む限り、中国国内のスタートアップが中心的な投資対象であるようだ。

まとめ

今回、取り上げたCVCは母体の本業に近い投資先が多い。ただ、ディープテックに絞って取り上げているため、たとえばSaaS事業を行うスタートアップは、CVCの母体とそこまで関連が深くない場合もある。

冒頭で述べたように、今後も海外CVCを取り上げていくので、大企業の人にはどういったアプローチで投資しているのか、スタートアップの人にはどのステージで投資を受けているのかなどといった切り口でご覧いただきたい。 



参考文献:

※1:Samsung Venture Investment(リンク
※2:Dell Technologies Capital(リンク
※3:LG Technology Ventures(リンク
※4:Next47(リンク
※5:独シーメンス、新技術に5年で1100億円投資 AIなど対象, 『日本経済新聞』2016年6月29日(リンク



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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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