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海外のCVCはどのようなディープテックに投資しているのか?自動車・航空宇宙分野のCVC編

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海外のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を取り上げる特集。3回目は母体となる事業会社が自動車・航空宇宙メーカーのCVCを取り上げる。

広義のモビリティ産業は、脱炭素、安全性の向上などの課題を抱える事業分野だ。これらやその他の社会課題を、CVC投資の側面からどう解決しようとしているのか。

参考記事:海外のCVCはどのようなディープテックに投資しているのか|エレクトロニクス分野のCVC編
参考記事:海外のCVCはどのようなディープテックに投資しているのか|ライフサイエンス・製薬分野のCVC編

BMW i Ventures|デバイス取り付けだけで自動運転可能なソリューションに投資

BMWのCVCであるBMW i Venturesは、米マウンテンビューに本社を置き、北米、欧州、イスラエルのアーリーステージにあるスタートアップを投資対象とする。

一方、ATX編集部スタッフは以前、「BMW Startup GARAGE」というインキュベーションプログラムの日本担当責任者にインタビューをしたことがあり、「日本のスタートアップ、中小企業との協業を歓迎する」とのコメントがあった。同プログラムはBMW本体として行っているものであり、グループ全体としてはグローバルに投資を進めていると見られる。

本題であるBMW i Venturesのポートフォリオを読み目についたのが、トラックの自動運転ソリューションを開発するKodiak Robotics。SensorPodsと呼ばれるカメラ・LiDAR・レーダーが一体化したデバイスを既存のトラックのバックミラー部に取り付けるだけで、自動運転が可能だ(ただし、信頼性の高い運転のためには、別途、Guardianというシステムの導入が必要)。大きなトラックだけでなく、ピックアップトラックや無限軌道(キャタピラー)の軍用車にも使えるという。

同様に自動運転と関係する投資先に、Lunewaveがある。自動車向けレーダーセンサーの他、球面対称レンズであるリューネブルクレンズも開発しており、こちらは自動車だけでなく通信分野でも活用可能なものだ。

参考記事:自動車用のリューネブルクレンズアンテナ・レーダーを開発するLunewaveが7m$の資金を調達

自動車を重さで見た際、その多くを占めるのが鉄だが、グリーンスチールの生産方法を開発した投資先がBoston Metalだ。同社はグリーンスチールのメーカーではなく、技術を他社にライセンス供与するビジネスモデルを採用する。

Boston Metalは2024年3月、ブラジルに新施設を開設。鉱山の廃棄物から高価値の金属を回収する(Boston Metalプレスリリースより)

Bosch Ventures|ポートフォリオには英量子コンピューター開発スタートアップも

自動車部品メーカーのBosch は、Bosch Ventures(正式社名:Robert Bosch Venture Capital)というCVCを設けている。お膝元のドイツ・シュツットガルトの他、同国フランクフルト、米サニーベール、同ボストン、イスラエル・テルアビブ、中国・上海にオフィスを構える。

GNSSチップを開発する投資先に、Allystar(華大北斗)がある。GNSSチップは人工衛星の位置情報から測位などを行うチップで、Bosch Ventures はAllystarを「車載グレード」の開発をするスタートアップとして紹介。Allystar のウェブサイトには、チップセットとして7品が掲載されている。

Boschは自動車部品以外にもさまざまなプロダクトをつくっているため、Bosch Venturesの投資先分野も幅広い。その一つであるArris Compositesが開発する複合材料は、ランニングシューズから航空宇宙までと用途がさまざまにある。

米陸軍のブーツのインソールに採用されたArris Compositesの素材(Arris Compositesプレスリリースより)

参考記事:炭素強化複合材のArris Compositesが50億円を調達。スポーツブランドから航空分野までが幅広く素材を活用

他、量子コンピューターを開発する英スタートアップ、Quantum Motionにも投資している。

GM Ventures|自動車に限らずエネルギー、素材など幅広い投資先

General MotorsのCVCであるGM Ventures は、これまで77社に投資。また、リードインベスターを36回務めている。

リチウムイオン電池関連などこれからの自動車産業に関連する投資先もあるが、全体的に分野として幅広いポートフォリオとなっている。例えば、エネルギー分野の投資先であるのが、風力発電スタートアップのWind Catching Systems。一般的に風力発電というと1つの支柱に1つのローターが付いた形態をイメージするが、Wind Catchingは1つの浮体の上に多数のローターを配置する方式を採る。

菌糸体を原材料とした新しい繊維素材を開発するMycoWorksにも出資。2024年6月には、GMの高級車ブランドであるCadillacの内装に、MycoWorksの素材が利用されるとの発表があった。

MycoWorksの素材が使用されたCadillacのコンセプトカー(MycoWorksプレスリリースより)

参考記事:アパレル分野における3種の先端素材とスタートアップ7社

Niron Magneticsは、エレクトロニクス製品に使われる希土類磁石の代替品を、希土類を用いずに開発したスタートアップ。環境負荷低減の他、地政学的リスクにも耐えうるプロダクトとなる。

Porsche Ventures|ポートフォリオにナノコーティングのActnanoなど

スポーツカーを中心とした自動車を製造するPorscheは、Porsche Ventures (正式社名:Porsche Investment Management)を2016年に設立。前出のBosch Venturesと同じドイツ・シュツットガルトの企業で、拠点を展開する場所も似ている。シュツットガルトの他、ドイツにはベルリンにオフィスがあり、他、ルクセンブルク、米パロアルトとロサンゼルス、イスラエルのテルアビブの6カ所となっている。

SaaSを提供するスタートアップも少なくないが、ディープテックではナノコーティングのActnanoがある。難分解性の有機フッ素化合物(PFAS)を使わず、コンピューター、エレクトロニクスの基盤などを保護する。

Porsche Venturesにとってはすでにイグジットしたスタートアップだが、WayRayというホログラムによるARに関連したスタートアップにも出資していた。近年、自動車のフロントガラス上にスピードや進行方向を示すディスプレイ表示がされるようになったが、WayRayはより詳細にUI/UX面でストレスない簡単な地図や交差点の停止位置なども表示する。

WayRayのホログラムを搭載した自動車のインターフェース(WayRayプレスエリアより)

また、現行の自動車に装備されている各種センサーの情報を先進的なAIによる分析でセンシングするTactile Mobilityにも出資。このテクノロジーはタイヤの摩耗やグリップに有効であるため、GoodyearのCVCも投資している。

Airbus Ventures|2025年で設立から丸10年

Airbusは2015年、Airbus Venturesを設立。以下の記事でも、取り上げている。

参考記事:CVCを通じたオープンイノベーションを積極的に行うAirbus

C12 Quantum Electronicsは、量子コンピューターを開発する投資先。カーボンナノチューブをベースにした量子コンピューターであり、これとシリコンチップをつなぎ量子回路をつくる。

e-peasは、周辺にあるエネルギー(電気)を「収穫」、そしてMCUでの計算によって効率的な利用と消費電力の削減を実現するデバイスを開発する。

Isar Aerospaceは、「持続可能」をテーマにしたロケットを開発するスタートアップ。11月には、欧州宇宙機関(ESA)の宇宙ビジネス支援プログラム「ESA Boost!」により、€15m(約24億円)を確保した。

参考記事:Isar Aerospaceが総額357億円を調達へ、民間発の「持続可能な宇宙開発」を目指す

Lockheed Martin Ventures|低重量で高出力のモーターを開発する投資先

Lockheed Martin は航空宇宙企業であるが、同時に防衛産業に属する企業ともいえるだろう。Lockheed Martin VenturesというCVCが投資活動を行う。

投資先のEkso Bionicsは、脊髄損傷や脳卒中などで身体を自由に動かせなくなった人のため、リハビリや生活の補助を行う「exoskeleton(外骨格)」を開発。米食品医薬品局の認証を受け、また米国の保険制度であるメディケアにも対応している。

航空機を開発するスタートアップには、Electra Aeroがある。電気と燃料のハイブリッドで飛ぶ飛行機を開発しており、燃料も持続可能な航空燃料(SAF)100%であれば、ゼロエミッションに資するとしている。

Electra Aeroのデモ機(Electra Aeroプレスリリースより)

H3Xが開発するのは、モーター。必ずしも古典的なものとはいえず、200キロワット/18キログラム、33キロワット/4キログラムといった非常に高効率なモーターで、電気飛行機、重工業、発電などで活用できると訴求する。

まとめ

自動車や航空宇宙のプロダクトで求められるのは、単に「走る」「飛ぶ」機能だけではない。効率よく、サステナビリティな移動の実現には、素材、コンピューター、飛行機であれば地上でのロジスティクスといった面での機能性も求められる。

実際、ディープテックには該当しないものの、側面的な支援を行うSaaSを開発する投資先も見られた。

 


参考文献:
※1:BMW i Ventures(リンク
※2:Bosch Ventures(リンク
※3:GM Ventures(リンク
※4:Porsche Ventures(リンク
※5:Airbus Ventures(リンク
※6:Lockheed Martin Ventures(リンク


 

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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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