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「永遠の化学物質」PFAS。現在の規制と代替品の開発状況

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有機フッ素化合物(PFAS)は、ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の総称であり、1万種類以上の物質が存在するといわれる。PFASは撥水性、耐油性、絶縁性など多くの特性を持ち、食品包装紙や防護服、泡消火剤、電子部品など、多くの分野で利用されてきた。

しかし、PFASは自然環境中で分解しにくく生物蓄積性が高いため、人体や生態系への有害性が懸念されている。こうした特性から「永遠の化学物質」とも呼ばれ、近年、国際的にその使用規制が強化され始めた。

本稿では、PFASの規制の背景と地域別に見た規制の内容、代替品について取り上げる。

PFAS規制の背景|2つの懸念

PFASは環境への悪影響が懸念されるため、規制を強化する方向に進んでいる。最初に、PFASの懸念点について取り上げる。

1.環境への影響

PFASは、自然界で分解されにくく、水道水や地下水に流れ込むことで長期的に環境に残存する。PFASの蓄積により、生態系への悪影響が懸念される。

2.健康リスク

PFASは人体に取り込まれると、内分泌系の乱れや発がんリスクが高まるとの指摘がある。食品包装材や調理器具に使用されるPFASが食品を介して人体に取り込まれる懸念があり、特に消費者向け製品での使用は慎重な対応が求められている。また、PFASが蓄積した水や食材から体内へ入ってしまう場合もある。

なお、フライパンのテフロン加工に使われるPTFEもPFASの一種であるが、規制の対象にはなっていない。PTFEは発がん性や人体への毒性など、健康への懸念は少ないとのが報告されている。

世界各地域のPFAS規制|米、欧、日の状況

PFASは環境への影響の懸念から、世界各地で規制が進められている。国際条約においても、2001年に採択された国際条約「ストックホルム条約(POPs条約)」に基づき、PFOS(2009年)、PFOA(2019年)、PFHxS(2022年)などの物質が規制対象になった。

米国、欧州、日本での規制は次のようになっている。

米国のPFAS規制

米国では、「Toxic Substances Control Act(TSCA。有毒物質規制法)」に基づくPFASの規制がある。

主な規制の状況

内容

2002

PFOSがSNUR(重要新規用途規制)に追加

2020

PFOA、PFHxSがSNURに追加

2021

環境保護庁(EPA)が「PFAS戦略ロードマップ」を発表し、より詳細な政策実施へ移行

 2021年のロードマップ策定では、環境保護庁内の水道局が地下水や水道水への溶出をアセスメントするなど、具体策が盛り込まれた。

また、食品包装における脱PFASも進んでおり、米マクドナルドは2025年末までにすべての食品包装でPFASを廃止すると宣言している。

欧州のPFAS規制

欧州では、REACH規制(化学物質管理における法規制)などに基づくPFASの規制がある。

主な規制の状況

内容

2006

PFOSの販売・使用が制限。後に、REACH規制で規定

2020

PFOAがPOPsに基づくEUの規制で禁止

2023

環境保護庁(EPA)が「PFAS戦略ロードマップ」を発表し、より詳細な政策実施へ移行
PFHxSが同じくPOPs規制で禁止
C9-C14がREACH規制で制限

2026

PFHxAの規制が始まる予定

 2023年に公表された制限提案文書は、将来的に約1万種類のPFASの製造、上市、使用(輸入を含む)を制限する案となった。

日本のPFAS規制

日本では、化学物質審査規制法(化審法)に基づき、PFASを第一種特定化学物質として指定している。

主な規制の状況 

内容

2010

PFOSが第一種特定化学物質に指定

2021

PFOAが追加指定

2024

PFHxSが追加指定

 また、水質汚濁防止法や水道水質基準もPFAS関連の基準引き上げが行われている。

水質汚濁防止法では、2022年にPFOAおよびPFOSが指定物質に追加された。これらを生産する工場では、事故によって指定物質を含む水が排出された場合、都道府県知事への届出が義務付けられる。

水道水質基準では、PFOAとPFOSの合計値を水道水1リットル当たり50ナノグラムとする暫定目標値を設定している。

PFASの代替品|4分野での事例

現在、PFASを完全に代替する化合物は存在しない。PFASは耐水性、耐熱性、摺動性、耐薬品性など多くの優れた特性を持っており、それらをすべて補完することは難しいだろう。そのため、分野ごとにPFASが持つ特性を代替する材料が使われているのが現状だ。

ここでは、各分野のPFAS代替品を紹介する。

食品包装紙

王子ホールディングスがPFASフリーの耐油紙「オハジキ」の販売を開始した。フッ素コーティングを用いず、独自のコーティング技術により従来のPFAS使用包装材と同等の耐油性を実現した。

PFAS使用紙と比べ1.5~2倍のコストであるが、環境意識の高まりによって食品企業から多くの引き合いがあるという。

繊維

多国籍スタートアップのAMPHICO(アンフィコ。正式社名は「Amphibio」)はPFASを使わないリサイクル繊維素材を発表した。樹脂の組成などを工夫し、撥水性を持たせたもの。撥水コーティングにPFASを使用していたアウトドア製品への応用を目指す。

AMPHICOの素材でつくったプロダクトと、経営陣(同社プレスリリースより)

工業材料

チューブ、FPC離型フィルム、ケーブル用絶縁体としては三井化学のPFAS代替品「TPX」がある。TPXの特徴は高い耐熱性(融点が220~240度)と優れた離型性、耐薬品性であり、これらはフッ素樹脂と共通した特性だ。

本材料は、耐熱性を活かしてマーナ社の電子レンジ調理器に採用された実績がある。

半導体向け材料

DICは、半導体製造向けにPFAS(有機フッ素化合物)を使用しない界面活性剤を開発した。従来のフッ素系プロダクトを超える表面張力の抑制、滑らかな薄膜形成などの特徴がある。

PFAS代替品の表面張力を示すグラフ(DICプレスリリースより)

環境規制が強まる欧米市場を視野に入れ、2030年に売上高50億円を目標としている。

PFAS代替品で求められるイノベーション

ここまで触れたように、PFASの代替品は分野ごとに異なる原料、素材を利用していく動きが現在のトレンドだ。

今回、取り上げた代替品はほとんどが大企業であった。今後、スタートアップと大企業との協業によるイノベーションも望まれる。



参考文献:
 ※1:食品安全委員会 ファクトシート, 2012年6月(リンク
 ※2:有機フッ素化合物(PFAS)の法規制について, 内藤環境管理株式会社(リンク
 ※3:外食や素材、「脱PFAS」へ自主行動 欧米の規制が背景、日本経済新聞, 2024年11月(リンク
 ※4:「米国及び EU における内分泌かく乱物質の規制動向」-8 月分, 経済産業省(リンク
 ※5:PFAS Strategic Roadmap: EPA's Commitments to Action 2021-2024, 米環境保護庁(リンク
 ※6:欧州における永遠の化学物質「PFAS」の規制案, みずほリサーチ&テクノロジーズ(リンク
 ※7:Cross-cutting story 3: PFAS, 欧州環境庁(リンク
 ※8:Per- and polyfluoroalkyl substances (PFAS), 欧州化学庁(リンク
 ※9:【2024年度版】ヨーロッパ輸出で注意すべきREACH規則のPFAS規制リスト, Eurofins Japan(リンク
 ※10:PFHxS等を含有する消火器・消火薬剤の取扱いについて, 日本消火器工業会(リンク
 ※11:「水質汚濁防止法施行令の一部を改正する政令」 の閣議決定について, 環境省(リンク
 ※12:PFOS、PFOA に関するQ&A集, 環境省 PFASに対する総合戦略検討専門家会議(リンク
 ※13:食品の包みで脱PFAS 王子HDの代替品需要「予想超え」, 日本経済新聞, 2024年9月(リンク
 ※14:PFASフリー繊維を24年に量産 アンフィコ、国内外で, 日本経済新聞, 2023年7月(リンク
 ※15:PFAS代替┃TPX® 耐熱・透明な高機能プラスチック, 三井化学(リンク
 ※16:三井化学の世界オンリーワン樹脂「TPX®」がマーナ社の電子レンジ調理器に採用, 三井化学(リンク
 ※17:DIC、半導体向け新素材を開発 フッ素化合物使わず, 日本経済新聞(リンク



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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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