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プリンテッド(プリンタブル)エレクトロニクスの技術、そして関連スタートアップ|活用先は?

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プリンテッドエレクトロニクスは、紙に文字を印刷するように、基板に電子回路を印刷することでコストやリードタイムの削減を目指す。日本では、「プリンタブルエレクトロニクス」とも呼ばれる。

近年では3Dプリンターが登場したことで、平面的だったプリンテッドエレクトロニクスに新たな展開が生まれた。

本稿では、プリンテッドエレクトロニクスの関連分野やスタートアップを取り上げる。

プリンテッド(プリンタブル)エレクトロニクスの広がりと曲がり

プリンテッドエレクトロニクスは塗布・印刷プロセスで電子機器を製造する技術や機器そのものを指す。例えば、有機半導体は有機溶媒に溶かして基板上に印刷でき、プリンテッドエレクトロニクスへの応用に適する。導電インクもプリンテッドエレクトロニクス用途に広く利用されるようになった。

研究者たちが過去に想定していたプリンテッドエレクトロニクスは、新聞を印刷するように輪転機を用い、電子回路がroll-to-rollで印刷されるものだった。その利点は大量に生産でき、真空蒸着などのプロセスに比べてコストを安く抑えられることだと考えられてきた。

ただし、現状ではコストの壁を打ち破れていない。2017年に印刷方式での有機ELディスプレイ開発に世界で初めて成功したJOLEDは、業績が悪化し、2023年に民事再生法申請、2024年11月に解散となった。現在の有機ELは真空蒸着で生産され、自発光による省エネ、高い精細度を特徴としている。

フレキシブル基板やウエアラブル、曲面など、形状や機械的特性がプリンテッドエレクトロニクスと関連付けられることも多い。他方、現在開発が進められる無機マイクロLEDなどにおいて、製造工程は塗布・印刷でないものの、ある程度のフレキシブル性や曲面形状を備えるケースも見られる。

また、3Dプリンターの登場で、プリンテッドエレクトロニクス自体の意味合いも変わってきた。

従来、プリンテッドエレクトロニクスと言えば紙のように柔軟な基板上に、基板と同様の柔軟なデバイスを製造するイメージを持たれていたが、3Dプリンターを使って生産される電子製品は基本的にソリッドな立体形状デバイスだ。3Dプリンターは登場当初から廉価な製品を製造するためのツールではなく、1点もので高価な製品を製造するために用いられることが多い。特に航空宇宙分野や製品のひな形作製に利用される。

3Dプリンターは名前に「プリンター(印刷機)」と付くためプリンテッドエレクトロニクスと関連付けて語られるが、パウダーベッド方式や光造形方式の3Dプリンティングを塗布・印刷に分類して良いのかどうかは明確ではなく、わざわざ議論されることもない。このように3Dプリンターとプリンテッドエレクトロニクスの境界が曖昧になったことで、プリンテッドエレクトロニクスのイメージや目指す方向性も変わってきたともいえるだろう。

まとめると、プリンテッドエレクトロニクスは、フレキシブル、ウエアラブルデバイス、有機半導体、導電インク、3Dプリンティングなどの領域に広くまたがり、構想当初とは少々異なる方向へ進化してきた。関連産業はデバイス製造のみならず、ナノ導電インクなどの材料開発、3Dプリンターなどの製造機器開発にも及ぶ。

関連するスタートアップ6社|活用先にはライフサイエンス分野も

ここからはプリンテッドエレクトロニクスに関連するスタートアップを取り上げる。欧米・イスラエルの4社と、日本の2社を紹介する。

取り上げる6社の概要(公開情報より編集部制作)

Nano Dimension|無線通信機器

Nano Dimensionは積層造形(Additive Manufacturing。AM)、つまり3Dプリンターを活用して素子の微細化や表面実装を行う。従来技術では困難な形状やサイズの電子機器についても迅速にプロトタイプを製造することが可能だ。

また、AMにおける微修正、材料の最適化などをサポートするためにディープラーニングを導入し、生産性の向上に取り組む。

代表的なプロダクトには5G IoT向けミリ波アンテナがあり、この他にもさまざまなセンサーを開発してきた。AMによる電子機器製造は回路部分のみならず、パッケージの形状までを含めて構造を最適にカスタマイズでき、容量を抑え、小型化にも貢献する。

宇宙用途の電子機器製造にも注力し、2021年にはNano Dimensionが3Dプリンターで製造した無線通信素子が軌道上の実験室外部に取り付けられ、実証試験が行われた。

InkSpace Imaging|MRIコイル

InkSpace Imagingは磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging。MRI)で使われる信号受信コイルの製造を行う。

InkSpace Imagingのプロダクト(同社プレスリリースより)

MRI用のコイルは核磁気共鳴によって人体から放出される微弱な電磁波を受信する役割を担うが、従来品は剛直なコイルを利用していた。InkSpace Imagingのコイルは印刷プロセスで製造される柔軟なパッド状デバイスで、測定対象に密着してノイズを軽減することができ、高い分解能を持つことが特徴だ。患者に合わせてさまざまにカスタマイズでき、小児などにも適用しやすい。

Canatu|CNT

Canatuは、カーボンナノチューブ(CNT)を用いた製品や、CNT製造用のリアクターを製造・販売している。同社が特許取得済みの浮遊触媒化学蒸着(FC-CVD)リアクターを用いれば、長さ10ミクロン以上で均一なCNTが生産可能だ。

CNTは透明導電フィルムやEUVペリクル(リソグラフィーでフォトマスクを保護するために用いるフィルター)に用いられ、導電フィルムはプリンテッドエレクトロニクスによって生産。半導体、自動車などの分野で活用されている。

Dycotec Materials|材料開発

Dycotec Materialsは、銀・銅・グラフェンなどを含む導電性材料、塗布印刷可能な絶縁材料、封止剤、熱伝導インク、透明オーバーコート剤など、プリンテッドエレクトロニクスで用いられるさまざまな材料の開発・販売を行う。また、それぞれの材料を用いるプロセス開発を進めてきた。

Dycotec Materialsの材料を利用した製品は、スマートグラス、ヒーター、太陽光パネル、センサー、アンテナ、タッチスクリーンなど多岐にわたり、部分的な塗布印刷技術の導入にも対応する。

エレファンテック|インクジェット印刷

エレファンテックは、金属ナノ粒子配合インクの開発や高精度なインクジェット印刷技術により、電子機器の配線におけるエッチング工程を排し、塗布印刷プロセスへ置き換えることを目指す。

エレファンテックのプロダクト(同社プレスリリースより)

同社は、ナノ粒子の挙動や基板との密着強度低下メカニズムに関して徹底的な現象分析を行ってきた。用いる溶媒が非常に少なくて済むインクジェット印刷は環境負荷が小さく、材料コストを低減も期待される。

フューチャーインク|フィルムセンサ

フューチャーインクは山形大学発のスタートアップで、デザイン自由度の高いフィルムセンサの開発に取り組む。

同社の開発した Vital Beatsはシート状の心拍・呼吸モニタリングデバイスだ。マットレスや布団の下に敷いて使用し、要介護者・介護者双方の負担を軽減する。フレキシブルかつ軽量・高感度で使用者の眠りを妨げることなく、体調を管理できる。

プリンテッドエレクトロニクスの期待と課題

前出のエレファンテックは、2022年に$82b(約12兆円)だったプリンテッドエレクトロニクスの市場規模は、2030年に$128b(約20兆円)にまで成長。年平均成長率は6%と説明している。

もっとも、使える金属の種類が限られる、量産化の事例がないといったケースも出てくるだろう。資源消費の削減に求められる技術であるので、大企業からの長い目での投資も必要になりそうだ。



参考文献:
※1:民事再生手続開始の申立て及びスポンサー支援に係る基本合意締結のお知らせ, JOLED(リンク
※2:解散のお知らせ, JOLED(リンク
※3:Nano Dimension(リンク
※4:Compact Multilayer Band Pass Filter Using Additive Manufacturing, Nano Dimension(リンク
※5:L3Harris 3D Printed Space Experiment Flies on the International Space Station, L3Harris(リンク
※6:InkSpace Imaging (リンク
※7:Canatu(リンク
※8:Dycotec Materials(リンク
※9:エレファンテック(リンク
※10:フューチャーインク(リンク



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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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