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非接触充電の技術的概要と課題。世界各国のスタートアップ7社の開発状況は?

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非接触充電は、配線を用いず、電子機器の充電における自由度を向上させることに期待が集まる。スマートフォンや電気自動車(EV)の充電などで既に利用が始まっているが、1メートル以上の遠隔充電ではコストや安全面から課題も多い。

本稿では非接触充電に関する国際規格や法制度、関連スタートアップを紹介する。

非接触充電とは?実証の事例

非接触充電とは、充電ケーブルなどの導体を介さずに電力を伝送する技術であり、ワイヤレス電力伝送(WPT)、無線給電とも呼ばれる。充電用にケーブルを接続する煩わしさを減らすとともに、ケーブルによる物理的制限から電子機器を解放でき、より自由な電子機器利用に期待が集まる。

例えば、スマホの充電においては端子をつなぐ手間が省けるのみならず、後述する理由から機種ごとに別のケーブルを用意する必要がなくなる。機械的に駆動する部品もないので損耗も少ない。

EVの非接触充電では、毎日同じ場所に駐車すれば自動で充電してくれるため、充電忘れの心配がなくなるといったメリットがある。

スマホの充電は既に実用化されているが、EVのような大電力を扱う非接触充電は未だ実証実験段階だ。一例として、島田理化工業は市販EVに後付けできる非接触充電車載装置や対応するインバータなどの開発を進めており、2024年5月から公道での走行実験を開始した。

なお、本稿冒頭で示した写真は、島田理化工業が実証で使っているEVで、下図のように車側にも受電コイルを取り付けるが、改造自動車の届け出は必要ないという。

島田理化工業のEV用非接触充電の仕組み(同社プレスリリースより)

非接触充電の種類

非接触充電の方式として、大きく分けて非放射型と放射型がある。

非放射型には、磁界結合と電界結合方式があり、どちらもギャップ数センチメートルで用いる近距離用の電力伝送方式だ。

磁界結合とは電磁誘導による電力伝送を指し、コイルによってつくられる磁束の変化を別のコイルに通過させることで電力に変換する。電界結合とは、コンデンサのように2枚の金属板間の相互作用によって電流を誘起するものだ。

磁界結合型は電界結合と比べて伝送距離が長い。対して、電界結合型は装置に必要な部品が安価でコスト効率に優れることが特徴だ。

放射型には、マイクロ波などの電磁波を用いるものと、レーザーを用いるものがある。伝送距離が長くても1メートル程度の非放射型と比べ、放射型の電力伝送は最大で100メートル程度、離れた場所へ電力を伝送できる。ただし、低いエネルギー効率が課題で、大型の機械を駆動させるだけの電力を伝送する際には、人体への影響も懸念される。

マイクロ波とは通信で使われる電波と同じく、アンテナから放射される電磁波だ。通常、電波は発振源を中心にさまざまな方向へ広がりながら進行するため、距離減衰が激しい。どのように指向性を持たせ、効率を上げていくかが課題だ。

一方、レーザーは直進性が高く、マイクロ波より高い効率が期待できるが、給電できるほどのエネルギーを持ったレーザーは一種の兵器であり、安全面には特に注意が必要となる。近年では画像認識などを用いたレーザー誘導の技術が進展し、狙った場所へレーザーを飛ばせるようになってきたものの、未だ研究レベルだ。将来的にはIoTシステムやドローンへの統合が期待される。

国際規格「Qi」

Qi(「チー」と発音する)は、2010年策定の無線給電に関する国際規格だ。現在のスマホ用無線給電規格はほとんどがQiに統一されているため、機種間で異なる充電器を使い分ける必要がない。

2023年には従来の位置ずれ問題を解消する新たな規格としてQi2が発表された。Qi2策定にはAppleも携わっていることから、iPhone15はいち早くQi2対応機種となっている。Qi2に対応する機種は順次拡大していく見通しだ。

国内の法整備|2022年の電波法改正

2022年5月26日の電波法改正によって、920メガヘルツ、2.4ギガヘルツ、5.7ギガヘルツの周波数がマイクロ波無線給電用に割り当てられている。法改正で、マイクロ波を用いた無線給電をビジネスに利用できるようになった。

また、2024年6月にはEVにおける無線給電の普及を進めていくことを目的としたEVワイヤレス給電協議会が設立された。関西電力、ダイヘン、シナネン、三菱総合研究所、WiTricity Japanの5社により設立し、市場動向調査、関連制度や規格の整備、補助金拡充のための活動を進める。

関連スタートアップ|各国7社が進める非接触充電のスタイル

国内では電力会社や自動車メーカー、通信事業者、電子機器メーカーらが非接触充電の拡充に取り組んでいる。ここでは非接触充電の新たな取り組みを俯瞰するため、スタートアップの動向に的を絞ってそれらの活動を取り上げる。 

企業名

エイターリンク

Space Power Technologies

Wi-Charge

PHION Technologies

Resonant Link

MAGMENT

Energysquare

設立年

2020年

2019年

2010年

2017年

2017年

2015年

2014年

拠点国

日本

日本

イスラエル

米国

米国

ドイツ

フランス

最新資金調達フェーズ

シリーズB

N.A.

シリーズB

シード

N.A.

N.A.

シード

資金調達総額

$133m

N.A.

$47m

$2.5m

$9.5m

N.A.

$4.8m

方式・特長

マイクロ波
スタンフォード大出身者が創業

マイクロ波

レーザー
非接触充電可能なディスプレイも開発

レーザー

磁界結合(多層自己共振構造)

磁界結合
充電に必要なフェライトタイルに技術的強み

電界結合
LenovoのPCに採用

取り上げる7社。公開情報より編集部制作。日本円はドルに換算。横にスクロールすることで閲覧可能

エイターリンク

エイターリンクは、2020年8月に設立したスタンフォード大学発のスタートアップだが、本社は日本に設置。マイクロ波による無線給電システム「AirPlug」の社会実装を目指し、2024年3月にはビルマネジメント領域で一般向けのプロダクト販売を開始した。

AirPlug Sense-T(エイターリンクのプレスリリースより)

フェーズドアレイアンテナのように複数個のアンテナを同時に制御し、電力の伝送効率を高めることをコア技術としているようだ。ビルマネジメントのみならず、ペースメーカーなどのメディカルインプラント、ファクトリーオートメーションにも今後取り組んでいくとしている。

2024年5月には、シリーズB資金調達ラウンドで合計20億6000万円を獲得した。

Space Power Technologies

Space Power Technologiesは2019年5月設立の日本のスタートアップ。マイクロ波を用いた電力伝送によって、スマホ、ウエアラブルデバイス、IoTセンサーなどへの無線給電実現を目指す。

2024年8月、公益財団法人京都産業21が拠出する補助金「産学公の森」Ⅱ 事業化促進コースにおいて、京都大学と共同で進める「モバイル機器向け24GHz帯ワイヤレス電力伝送システムの基本機能モデル開発と事業化準備」という研究テーマが採択された。

Wi-Charge

Wi-Chargeは2010年に設立したイスラエルのスタートアップで、レーザー方式での開発を進める。レーザーはマイクロ波方式と異なり、距離減衰が少ないことが特徴だ。

同社が有するテクノロジーは「AirCord」と名付けられている。人体にも安全な赤外レーザーを用い、既存デバイスのプラグへ組み込むもの。1台のトランスミッターで複数のデバイスに給電でき、デバイスの充電状況をモニタリングする機能も備える。

AirCordのプロダクトの一つである「R1」はスマートデバイス、IoTデバイス向けの非接触充電器(Wi-Chargeプレスリリースより)

2023年5月には、小売業向け小型無線給電ディスプレイを発表した。配線のないディスプレイによって、簡単、柔軟な商品の訴求が可能となる。

PHION Technologies Corp.

2017年に設立されたPHION Technologiesもレーザー方式を採用している。

PHIONは三菱地所から出資を受け、丸の内エリアで開発を進んでいる都市計画へ無線給電システムを提供を目指す。2022年内に三菱地所が出資するインキュベーションセンターのInspired.Labでモバイルデバイス向け充電の実証実験を行うとしていたが、2025年1月現在、PHION、Inspired.Lab、三菱地所から発信された本実証実験の続報は見られない。

Resonant Link

Resonant Linkは磁界結合方式による非接触充電技術の開発を進める。

Resonant Linkが開発する医療機器向け非接触充電器(同社プレスリリースより)

同社は2021年、石油大手のShellと米エネルギー省国立再生可能エネルギー研究所 (NREL) が共同で出資するプログラムShell GameChanger Accelerator Powered by NRELへの参加企業に選ばれた。最大$250k(約2800万円)が受給できるもの。

同社の革新技術である多層自己共振構造(MSRS)は、2013年にダートマス大学で発明され、従来の技術に比べてエネルギー損失が低く、高速、小型、長距離充電可能で、低コストなシステムとなっている。

メディカルインプラントへの給電システムを開発する他、ドローンや自動運送ロボットへの電力供給も見込む。

MAGMENT

MAGMENTは2015年に設立されたドイツのスタートアップ。主に無人搬送車(AGV)や電動スクーターなどへ給電するシステムを開発している。

同社は磁界結合方式で給電を行うが、ここで用いられるフェライトタイルという部材の生産をコア技術とする。

フェライトは酸化鉄を主成分とするセラミックで、磁石やインダクター用の磁心などに用いられてきた。フェライトタイルはコイルによる制御で磁界を作る板となり、このタイルの上の自動搬送車に給電が可能となる。

従来のフェライトは脆く割れやすかったが、MAGMENTのフェライトタイルはコンクリートとの配合を工夫することで高い機械強度を実現した。そのため、タイル上を搬送車が通過しても問題ない。衝撃吸収材を間に挟む必要がないので、高いエネルギーの伝送効率を実現できる。

Energysquare

2014年に設立したフランスのスタートアップ、Energysquareは給電に電界結合方式を利用する。

電界結合方式であるため、ほぼ接触した状態での給電となるが、充電のための端子は不要となるメリットがある。同社の技術はLenovo製品に採用され、Lenovoから充電用のパットと対応PCが販売されている。

クリーンエネルギーにも寄与できるか

ご覧のように、非接触充電はすでにある程度の技術の進展がありつつ、さらなる開発の余地も残されている分野だ。

とりわけ、マイクロ波による充電システムが一定の到達点に行き着けば、時折、構想される宇宙での発電と地球への無線による送電にも影響を与えるかもしれない。そういった意味では、クリーンエネルギーとも関連する部分がある。



参考文献:
※1:EV用ワイヤレス給電の市販車搭載による公道走行実験を開始, 公益財団法人自動車技術会(リンク
※2:ワイヤレス給電の技術概容, 髙橋俊輔, 『tokugikon』279号 2015年11月30日(リンク
※3:レーザーで無線給電 IoT端末、ドローン、EVから基地局まで, 野澤哲生, 日経クロステック(リンク
※4:Qi: Mobile charging empowered, Wireless Power Consortium(リンク
※5:ワイヤレス充電規格「Qi2」は、従来の「Qi」からどう進化した?, Wired(リンク
※6:総務省令第三十八号, 総務省(リンク
※7:EVワイヤレス給電協議会とは?, EVワイヤレス給電協議会(リンク
※8:エイターリンク(リンク
※9:1. US20180083371 - Radio-frequency energy transfers or harvesting based on combining direct current signals from multiple antennas, WIPO(リンク
※10:Space Power Technologies(リンク
※11:Wi-Charge (リンク
※12:Wi-Charge Launches 7" Video Display Powered by Over-the-Air Wireless Charging for Retail Environments , PR Newswire(プレスリリース)(リンク
※13:PHION Technologies(リンク
※14:「無線給電」の米スタートアップPHION Technologies に出資 ~“コードなしで給電できる世界”の実現に向け、22 年春に実証実験スタート~, xTECH(リンク
※15:Resonant Link(リンク
※16:Resonant Link selected to participate in Shell Gamechanger Accelerator, Vermont Biz(リンク
※17:MAGMENT (リンク
※18:EnergySquare(リンク




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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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