広州汽車(GAC)がTech Day2021で明らかにしたスポンジシリコン電極技術
広州汽車(GAC)は4月9日に、GAC R&Dセンターで1年に1回開催される大規模イベントである「GAC Tech Day」を開催した。このTech Dayで、同社は様々なR&Dの取り組みについて発表しているが、その中で、同社が開発しているスポンジシリコン電極技術についても明らかにされた。
広州汽車(GAC)の中性子星戦略
同社はプレゼンテーションの中で、低炭素、新エネルギー旅行の新時代を創造することを目的としたR&D戦略「Neutron-Star-Strategy(中性子星戦略)」を明らかにした。
このコンセプトは、パワーセルとelectric cores(直訳すると電気コア、であるが何を指しているのかはやや不明確。電動化に関する中核技術を指していると想定)の工業化アプリケーションに関する深く広範な研究を通じ、中性子星のような小さいサイズでありながら、極端な速度と電力が密集したバッテリーの開発に向けて継続的に取り組んでいくということだ。
独自特許を取得したスポンジシリコン負極
中性子星戦略の一環として、同社はスポンジシリコン負極プレートバッテリー技術についての独自特許を取得したことを発表。大型バッテリーのシリコン利用に関する課題を克服したという。
この技術は、バッテリー内部のシリコン負極シートがスポンジのように柔らかく弾力性があり、充放電による損耗への耐性を持たせるものとなっている。この素材を使ったバッテリーは体積を20%、重量を14%削減できると発表した。
プレスリリースでは技術の詳細は開示されていないため、同社の該当特許と想定される特許を見てみると、実際には純シリコンではなく、シリコン・炭素の複合材での負極となっている。
また、プレスリリース初見では、スポンジシリコンと表現されているためシリコンが多孔質状になったものをイメージしていたが、特許からは、多孔質カーボンの細孔壁にシリコン粒子を付着させたものであることがわかる。
負極にシリコンを活用することは、現在様々な企業が試みており、テスラやダイムラーなど一部の企業では炭素にシリコンを混ぜた素材で実際に実用化が始まっている。従来の黒鉛負極の理論容量は約372mAh/g、シリコン負極の理論容量は約4200mAh/gであり、シリコンはカーボン系負極に比べて容量増加が見込める。一方で、リチウムイオンの挿入(インターカレーション)・脱離によって体積膨張が大きく起こり、機械的摩耗・破砕や分解が起こってしまいサイクル寿命が短いことが課題となる。
GACは、この課題に対して、多孔質カーボンにシリコン粒子を分散させることで、シリコン粒子の体積膨張が起こっても摩耗・破砕が起こらない十分なスペースを提供しようとしている。(これをバッファスペースと呼んでいる)
(補足)ちなみに、多孔質シリコンを使ったスポンジライクな負極に関する研究も外部では行われており、過去に行われた米国エネルギー省DOEとPacific Northwest National Laboratoryの共同プロジェクトでは、多孔質シリコンにすることで体積膨張を軽減できるという研究結果が発表されている2)。
また、同時にシリコン粒子は炭化ポリアクリロニトリルでコーティングされる。同社の主張によると、ポリアクリロニトリル内の窒素原子とシリコン粒子の間に強い力が発生し、安定した導電性ネットワークを形成するとともに、体積膨張を回避するのに有効に働くという。
さらに特許内にはシリコン粒子のサイズは、10nm〜1μmという記述もある。ナノ粒子化されたシリコンは体積膨張への対応に有効である研究もあり3)、特許内では粒子径の幅が広いため実際にどの程度の粒子径かにもよるが、ナノ粒子化というのも1つの要素である可能性がある。
まとめると、GACが今回発表したシリコン負極のポイントは以下となる。
- 多孔質カーボンにシリコン粒子を付着させる(体積膨張のスペースを提供)
- シリコン粒子をポリアクリロニトリルでコーティング
- シリコン粒子をナノ粒子化する
(今回参考のプレスリリースはこちら)
ニッケルリッチ正極やシリコン負極、リチウム金属などの先進リチウムイオン電池に関する技術動向の全体像を知りたい方はこちら。
参考:(特集)車載向け次世代電池の技術開発動向① ~先進リチウムイオン電池~
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参考文献:
1) WO2019232879 - SILICON NEGATIVE ELECTRODE MATERIAL, SILICON NEGATIVE ELECTRODE, AND PREPARATION METHOD FOR SILICON NEGATIVE ELECTRODE, 发明名称 : 一种硅负极材料、硅负极及硅负极的制备方法
2) Silicon sponge improves lithium-ion battery performance, Pacific Northwest National Laboratory
3) 高性能リチウムイオン電池用シリコン負極材料の進展, Xuefeng Songら, State Key Laboratory for Metallic Matrix Composite Materials, School of Materials Science and Engineering, Shanghai Jiao Tong University, Material Matters, 2014, 8(4), pp. 10.
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