固体リチウム硫黄電池の開発で先行していたOxis Energyが倒産に向けた手続きへ
長年、固体リチウム硫黄電池を開発し、同分野で先行していると言われていた英国ベンチャーのOxis Energyが倒産に向けた手続きを行っていることを、5月19日に同社HP上で発表した。
同社は現在、Insolvency Practitioners Association(倒産実務家協会)に登録されているSimon Girling氏とChristopher Marsden氏を会社の共同管理者として任命し、倒産に向けた手続きを行っている。同社が保有しているリチウム硫黄電池に関する特許が競売にかけられているという。
そもそもリチウム硫黄電池とは
リチウム硫黄電池とは、正極にS(硫黄)、負極にリチウム金属を使った電池のことを言う。現在、主流のリチウムイオン電池では、高エネルギー密度の先端電池において正極はNCM(ニッケル・コバルト・マンガン)の三元系などの材料が使われている。特にコバルトは高価なこともあり、コバルトをできるだけ少なくし、ニッケルの含有量を増やしたハイニッケル正極や、リチウム過剰系正極などを使った電池が開発されている。
そうした中、硫黄正極は現行の正極材料の理論エネルギー密度の5~10倍ほどと非常に高く、電池のエネルギー密度を現行の先端LIBより大きく増加させるポテンシャルがあるため注目されている。また、コバルトやニッケルなどのレアメタルに比べて、硫黄はコストが安く、エネルギー密度を高めつつコスト低減が期待できる。そのため、ポストリチウムイオン電池の1つの有望な候補として見られている。
LG化学が重量エネルギー密度が410Wh/kgのリチウム硫黄電池のサンプルを出展していたり、メルセデスも現行のLIBに比べて軽いリチウム硫黄電池を、小型のバッテリーパックとして実装を検討しているという報道もある。
一方で、充電と放電を繰り返す際の硫黄の体積変化や、正極における化学反応の過程で、反応中間生成物の多硫化リチウム(Li2Sx)が有機電解液に溶出してしまうなど、課題は多く残されている。また、硫黄自体は電気伝導性が低く、炭素などの材料添加が必要であり、まだそのセルの材料構造自体が模索段階にある。
大型固体リチウム硫黄電池を発表したばかりだった
同社はこの4月に大型の固体リチウム硫黄電池の進捗について発表したばかりであった。(ちなみに同社の固体電池は「準(または半)」固体電池という表現がされており、完全な固体電池ではない点は注意)
第一世代の450Wh/kgの電池が、2021年秋頃までに航空や軍事(海兵)・大型EV向けのPoCを行う予定であり、2022年夏までに550Wh/kg、700Wh/Lのスペックを目標とした第二世代を生産することを計画として発表していた。なお、セルは10~20Ahの比較的大型容量のものであるという。
さらに、2020年にOxis EnergyはMinas Gerais Development Company CODEMGEと共同で、メルセデスベンツブラジルと15年間のリース契約を締結し、メルセデスの拠点内に製造工場を建設するべく設計作業にも入っていた。
簡単には進まないリチウム硫黄電池の開発
このように、リチウム硫黄電池の開発ではOxis Energyはかなり先行していると言われていた。しかし、今回、今後の製品開発・製造に関わる資金を調達することができず、倒産手続きを行うことになっている。
同じくリチウム硫黄電池を開発しているベンチャー企業は軒並み実用化に苦戦している。Sion Powerはリチウム硫黄電池の開発からピボットし、現在は硫黄を使わないリチウム金属電池にフォーカスしている。他にもリチウム硫黄電池を開発していたPolyPlusは、現在メインとしている技術はガラスで保護したリチウム金属電池となっている。
同社HPはこちら
(現時点では閲覧可能ですが、その内閉鎖される可能性があります)
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