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ロールスロイスが電気航空機のエネルギー貯蔵システム開発に10年で約120億円を投資

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ロールスロイスは民間/防衛向け航空機・ビジネスジェット向けのエンジンの世界最大手である。同社はすでに電気航空機向けの全電力およびハイブリッド電力の推進システムを手掛けており、今回、エネルギー貯蔵システムの強化のために10年で8,000万ポンド(約120億円)を投資をすることを明らかにした。

アーバンエアモビリティ向けエネルギー貯蔵システム

今回投資をするエネルギー貯蔵システムは、同社が新規領域として注力をしているアーバンエアモビリティにおける、eVTOL(電気垂直離着陸)、そして最大19席の固定翼航空機用の全電気・ハイブリッド電気推進システムに電力を供給するもの。

今回のロールスロイスが明らかにしたところでは、2035年までに年間500万個以上のバッテリーセルをモジュラーシステムに統合する。

同社のDirector of ElectricalのRob Watson氏は「私たちは、電気推進システムを補完するエネルギー貯蔵ソリューションのポートフォリオを開発しています。」と語っている。

全電気またはハイブリッド電気推進システムの「ワンストップショップ」と表現される同社の戦略は、電気航空業界向けに同社が得意な従来の駆動系だけでなく、エネルギー貯蔵のシステムにも力を入れる。

同社はすでに最先端のバッテリーセルを使った10種類もの航空宇宙向けバッテリーシステムを開発。これらのバッテリーのうち、4つのデザインのシステムがすでに3機の航空機で飛行し、250時間以上の飛行実験を行っている。そして、別の2つのデザインのシステムが2021年に航空機での初飛行を完了する。

VTOL・電気航空機を自社でも開発中

ロールスロイスはVTOL・電気航空機を自社でも開発している。

VTOLについては、2018年にそのコンセプトを発表。ガスタービン技術を使用して発電するハイブリッド方式で、時速250マイル(mph)までの速度で4〜5人の乗客を約500マイル運ぶことができるもの。固定翼と推進ローターの組み合わせで飛行する。

そしてもう1つはACCELLと呼ばれるプロジェクト名で進行している、電気航空機である。これは、現時点ではコンセプトモデルの開発となっており、1人乗りの航空機で、時速480 km(300 mph)で最高速度に達する。また、1回の充電でロンドンからパリまで約320 km(200マイル)飛ぶことができる設計となっている。72kWhのバッテリーパックの重量は450kgで、6,000個の円筒形リチウムイオン電池を組み込む。

同社が将来的に、機体の製造まで行うかどうかは不明であるが、上記のような自社主導での機体開発を進めながら、同時にeVTOL機体メーカーへシステムを提供する。2021年にはVertical Aerospace社と提携を発表。2024年までに認定することを目指している5人乗りのeVTOL航空機に電力システムを提供する。

理想とギャップがあるeVTOL向け電池の現在地

アーバンエアモビリティのビジネスモデルにおいて、機体開発と同様に非常に重要なキーコンポーネントとなるのが電池だ。電池によって航続距離や機体重量(すなわち電費)に大きく影響し、また充電時間の長さも機体を効率的に飛ばすことができるかどうかに直結する。

ドイツの7人乗りeVTOLを開発するLiliumは、バッテリーの性能実現のために、50社以上の電池を評価し、現時点では正極にNMCベース、負極をシリコンドミナントアノードを使ったもので、エアタクシーのサービスイン時ターゲットとなるセルの重量エネルギー密度は330~350Wh/kgとしている。

参考:空飛ぶ車ベンチャーのLilium(リリウム)のSPACを詳細解説

ペンシルバニア州立大学の研究者のXiao-Guang Yang氏らは、eVTOLとEVに求められる性能の比較を行い、現行のEVで使われている電池と、eVTOLで収益を最大化するために必要となる性能には大きな隔たりがあることを明らかにしている1)

eVTOLとEVにおけるバッテリーへの要求性能比較
引用:Challenges and key requirements of batteries for electric vertical takeoff and landing aircraft 1)

2024~25年頃に実用化してくると見られる空飛ぶ車のエアタクシーサービスであるが、本格的な商業化に向けては、電池及びバッテリーシステムの更なる技術開発が求められている状況だ。

 

今回参考のプレスリリースはこちら


【世界の都市エアモビリティに関する調査に興味がある方】

都市エアモビリティのeVTOLベンチャーの開発動向、バーティ―ポートなどのプロジェクト動向、関連プレーヤーのベンチマーク調査などに興味がある方はこちらも参考。

グローバルでの先端技術受託リサーチ:詳細


参考文献:

1) Yang et al. (2021) “Challenges and key requirements of batteries for electric vertical takeoff and landing aircraft”, Joule doi: 10.1016/j.joule.2021.05.001


  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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