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EV用リチウム金属電池を開発するSESがSPACで上場

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電気自動車向けのリチウム金属二次電池を開発しているベンチャー企業のSESが、SPACでニューヨーク証券取引所に上場することを発表した。Ivanhoe Capital Acquisition Corpとの合併となる。

合併後の会社の株式価値(プロフォーマベース)は、合併による3億ドルの収益を含め、約36億ドル(約3,977億円)になる。

今回のSPAC取引は、大手自動車メーカーであるゼネラルモーターズ、現代自動車、吉利控股集団、起亜自動車、上海汽車(SAIC)ら、そしてKoch Strategic Platforms、LG Technology Ventures、Foxconn、Vertex Ventures、Fidelity Investments Canada ULC、Franklin Templetonなどの投資家がPIPE(※1)で参画する。

※1 PIPEについてはこちらを参考

一連の取引は、2021年の第3四半期または第4四半期に完了する予定だ。

電気自動車用リチウム金属電池を開発している

SESはリチウム金属電池を開発している。

このリチウム金属電池は次世代の電池として期待されており、負極に従来のカーボン系や最先端のシリコン系などの素材を使わずに極薄のリチウム金属を使う。

同じ電気自動車向け電池でSPAC上場を行ったQuantumScapeは固体電解質を使ったリチウム金属固体電池であるが、SESは電解質は液系を使っており、固体電池ではない。

固体電池の場合は構造的に液系よりも安全に優れ、実用化できれば冷却システムなどが簡素化できることからパッケージの小型化や全体のコスト低下が期待される。しかし、一般に固体電解質のイオン伝導度が低いため、イオン伝導度に優れ、かつ調達コストが低い原材料を使った電解質の開発が必要なことと、多層に積層していく効率的な製造プロセスの確立が必要となる。一方で液系は現在市場でも使われており、大きな構造変化はないものの、液系リチウム金属電池が実用化されれば400Wh/kgのエネルギー密度も実現可能とされ、既存のリチウムイオン電池の製造プロセスも流用しやすい。

ただし、当メディアでも様々な記事で触れているが、リチウム金属を負極に使うことは、エネルギー密度を大きく向上させることができる反面、Liイオンが樹状に成長してしまうデンドライトという現象により、ショートを起こしたり電池が劣化するといった長年の課題がある。

SESは、保護アノードコーティングや、高リチウム塩濃度の電解質を用いるなど、様々な工夫を行うことでこの課題を解決しようとしている。

参考:GMが提携したリチウム金属電池ベンチャーのSESの解説

SESは各自動車OEMとの提携を進める

SESは各自動車OEMとの提携を進め、サンプル評価を進めている。2021年5月に韓国の自動車大手であるヒュンダイ・起亜と共同開発契約を締結し、ヒュンダイのEV用の「Aサンプル」リチウム金属電池を開発した。

またSESを支援しているゼネラルモーターズとの共同開発契約も行っており、米国ボストンの新しい試作製造施設で高性能の「Aサンプル」リチウム金属電池を試作し、提供することも発表している。

(補足)Aサンプルというのは、開発初期の段階で試作される数台レベルのサンプルであることが一般的である。

この4月にシリーズDで約150億円を調達したばかり

同社はこの4月にもシリーズDで、1億3900万ドル(約150億円)を調達し、話題となったばかりだった。

なお、この時のリードインベスターはゼネラルモーターズ(GM)で、既存投資家である韓国のSK Inc.、シンガポールの政府系ファンドTemasek、半導体製造装置大手AMATのCVCであるApplied Ventures LLC、Shanghai Auto(SAICのことだと思われる)、VCのVertexが参加した。

参考:ゼネラルモーターズ(GM)がリチウム金属電池のSESのシリーズDにリードインベスターで参画

SPACを通して最大約525億円の総収入に

SESは今回のSPACを通して、最大4億7600万ドル(約525億円※2)の収入を得ることになり、SESは取引終了時に6億ドルを超える現金を保有すると予想される。

※2 Ivanhoeの公的株主による償還がないと仮定した場合

今回調達する資金は、会社の成長のためと、2025年に向けた商業化段階への移行に役立てるという。

SESのCEOであるQichao Hu博士はこう述べている。

「SESのリチウム金属電池の性能は、2つの独立したサードパーティのテスト施設と複数の自動車メーカーによって検証されています。当社のバッテリー性能は、自動車のあらゆる動作環境と温度で業界をリードし、400Wh/kgのエネルギー密度を提供できます。また、電気自動車のサイクル寿命と安全要件を満たしながら、15分未満で最大80%の高速充電機能を備えています。General Motors、Hyundai、Kiaなどの世界クラスの自動車メーカーとのパートナーシップにより、当社の技術の商業化がさらに加速します。そして、2025年以降、より多くの世界的な自動車メーカーへの、主要なリチウム金属バッテリーサプライヤーとして浮上するように当社を位置づけています。」

プレスリリースより

鴻海もSESへの出資を決定

そして、元々のSESが発表したプレスリリースには名前が無かったが、やや遅れて鴻海もSESへの出資を決定したことが複数の中国メディアによって報じられている1)。詳細は今後の手続きが完了後に公表されるようだ。

鴻海は元々、新規事業としてEV事業を立ち上げることを表明しており、電池分野でもCATLとSESと提携して2024年までに電池を商品化することを発表していた。そのためSESとの提携関係は2020年の段階であったが、出資という形でさらに提携を深める形となる。

 

今回参考のプレスリリースはこちら


参考文献:

1) 鴻海與SES合作 共同開發高能量密度之車用電池, 聯合新聞網


  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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