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SPACでナスダックに上場した電池メーカーMicrovast

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商用車や特殊車両向けの次世代電池を開発・生産する米国のMicrovastは、Tuscan Holdings Corpとの合併を完了し、7月26日に米国新興市場ナスダックに上場している。

Microvastは今回のSPACによって、Tuscanが信託している約2億8,200万ドルの現金と、戦略的パートナーである米国の特殊自動車メーカーのOshkosh Corporationを含む主要な機関投資家からの5億4,000万ドルのPIPEの収益を得ることになる。(単純に合計すると8億2,200万ドルの資金を調達することになる

商用車・特殊車両というニッチな領域から事業をスタートさせたMicrovastとはどのような企業なのか、その概観を整理する。

商用車・特殊車両向けハイスペック電池で事業を展開

Microvastは2006年に米国のテキサス州ヒューストンで設立されたリチウムイオン電池メーカーだ。現在はヒューストンは本社のままで、フロリダ州にR&D拠点を持ち、テネシー州で電池製造工場を持つ。また、米国だけなく海外拠点も保有しており、ドイツベルリンにヨーロッパエリア向けの本社があり、中国にも製造・R&D拠点がある。すでに世界的に電池供給を展開している企業だ。

Microvastの電池は、これまでに世界で30,000台以上の商用車・特殊車両に組み込まれ、19か国の160の都市で稼働し、38億マイル以上を走行している。

直近の業績を見ると、2021年第2四半期の収益は3,340万ドル(約36億円)で、前年同期比で53.8%の増加となっている。また、同社によると2020年に契約した総額(Contracted Revenue)は、101m$(約110億円)となっており、すでに一定程度の売上・受注がある。

上述の通り、Microvastは商用車・特殊車両に特化したニッチな事業展開を行っており、実績のある車両は、ヨーロッパのトラック大手であるDAF Trucksの電動車両に採用されたり、ライトトラック、ロンドンのハイブリッドバス、中国の電動機関車メーカーCRRCの車両、シンガポール港でのAGV、鉱山向けトラックなどで利用されている。

また、最近フランスのeバスを開発・製造しているSAFRAの全電気バス、ハイブリッドバス、改造バスのバッテリーサプライヤーとしても認定されており、急速に採用が進んでいる。

ハイスペック電池実現のための垂直統合モデル

Microvastの1つの特徴として、電池のバリューチェーンを原材料調達・部材(カソード、アノード、電解質、セパレーター)からパッケージング、システムアセンブリまでのプロセスを統合していることが挙げられる。

水平展開でバリューチェーンを構築することも多い同業界において、珍しい垂直統合モデルを採用。セルの研究開発能力も保有する。例えば正極ではNMCからLFP、LTOまで、様々な材料を使いこなす知見を蓄積し、幅広い市場アプリケーションをカバーする、ニッチな顧客ニーズを捉えた製品群を構築した。

同社が提供する製品は、重量エネルギー密度で85~265Wh/Kg、サイクル寿命で2,500~20,000回、急速充電による充電時間は10~30分となっており、顧客ニーズによって提供するものが変わる。同社が主張するには、他社の標準化されたバッテリーに比べて、同社が提供する電池は、商用車・特殊車両に求められる顧客ニーズに合わせた特性を持つ電池がラインナップされているため、競争優位性があるということである。

例えば街中を走行するバスでは、走行距離はあまり重要ではないが、充電時間は重要視される。そのため、同社は正極にLTOを使い、重量エネルギー密度は95Wh/kg(競合比+30%)、満充電になるための充電時間はわずか10分(競合比1/2)のLIBを提供する。一方で長い距離を走行するトラックでは、NMCを使った電池で、270Wh/kg、充電時間は30分というスペックの電池を供給する。

同社は最適な材料への理解に加えて、自社で確立してきた、正極におけるコバルトなどの正確な分散技術、不燃性の電解液、高熱耐性のアラミドセパレーターなどの技術を組み合わせる。

1,000億円超の契約を締結済み

同社の売上計画を見ると、すでに2025年までで1,000億円超の契約(Contracted Revenue)があり、これからの事業活動でさらに積み増される(Other Forecasted Revenue)計画となっている。

Microvastの売上高計画

Microvastプレゼンテーション資料より当社作成

順調に行けば2024年段階で会社の業績は1,000m$を超える規模になると推計されている。

将来はEVタクシー等へも進出を計画

同社の事業計画では、現在は商用車・特殊車両に特化しているが、将来的にはタクシーなどの人を輸送するサービスで使われる乗用車にも展開を想定しているようだ。

想定されている電池のスペックは、重量エネルギー密度で200~265Wh/Kg、サイクル寿命で2,500~8,000回程度のものが計画されている。

 

同社HPはこちら


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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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